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13
「……いや。でも、一年が終わるころ、碧はマウンドを降りてしまった」
何やら誤魔化された部分も気になったが、後に続く言葉に、清は困惑する。
「なんで、辞めちゃったんですか!?」
せっかく、碧が笑顔で居れる場所に戻ったのに。そこに、蒼介も居ると言うのに。
「俺達にはわからなかったが、やはりずっと、自分の身体の以前との違いに悩んでいたらしい。ただ、チームは辞めてなくて、今は後方支援に回ってくれている」
「そうなんですか……碧先輩にしか分からない悩みなんでしょうけど、なんかもったいないし悔しいです」
あの時も思ったが、碧の肘の故障を代われるものなら代わってやりたい。現実に、変わることは出来ないし、声もかけれない自分がそんな事を思う事すら烏滸がましい、と、清は自分を卑下する。
「今、碧が新しい夢を見つけて楽しんでいるのはな、ある1枚の写真を見て、元気をもらったからなんだ」
「写真、ですか」
綺麗な夕陽か、生命の神秘か、どんな写真を見て碧は元気をもらったのだろうか。碧生と同じものを清も見てみたいと思う。
「どんな写真……」
「清ちゅーん!蒼くーん!」
ツキノワグマエリアの次の、サバンナエリアまで見て来たであろう史安が、大きく手を振ってこちらへ走ってくる。
「清。実はこのまる研、シアンさんの手芸部を乗っ取って出来たんだ」
到着したばかりの史安に「そうなんですか?」と問う。
「そうなんだよ、清ちゅん!聞いてくれる?ボクはただ、誰にも邪魔されずに趣味のお裁縫を楽しみたかっただけなんだよ~」
昨日の事のように思い出し、地団駄を踏む史安に、蒼介はくすくす笑う。
「交換条件があるんだ。シアンさんを無事に進級させるっていう」
「そう。その代りに、ボクがコツコツ確保してきた部室やその他諸々を提供してるの」
史安は、1年生と2年生をそれぞれ2回、経験している。「清ちゅんも、よろしくね」と言われ、肩に重いものがのしかかった気がした。
「そんな事より!あっちでパンダのおやつタイムが始まるんだって!けっこう人が集まってきてて、でも碧くんが血眼で、良い場所を探してくれてるから大丈夫!」
確かに、動物園に居る今は、パンダのおやつタイムに比べると進級の心配なんて「そんな事」だ。清と蒼介は、スキップしてパンダエリアへ向かう史安の後に続いた。
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