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「……いや。でも、一年が終わるころ、碧はマウンドを降りてしまった」  何やら誤魔化された部分も気になったが、後に続く言葉に、清は困惑する。 「なんで、辞めちゃったんですか!?」  せっかく、碧が笑顔で居れる場所に戻ったのに。そこに、蒼介も居ると言うのに。 「俺達にはわからなかったが、やはりずっと、自分の身体の以前との違いに悩んでいたらしい。ただ、チームは辞めてなくて、今は後方支援に回ってくれている」 「そうなんですか……碧先輩にしか分からない悩みなんでしょうけど、なんかもったいないし悔しいです」  あの時も思ったが、碧の肘の故障を代われるものなら代わってやりたい。現実に、変わることは出来ないし、声もかけれない自分がそんな事を思う事すら烏滸がましい、と、清は自分を卑下する。 「今、碧が新しい夢を見つけて楽しんでいるのはな、ある1枚の写真を見て、元気をもらったからなんだ」 「写真、ですか」  綺麗な夕陽か、生命の神秘か、どんな写真を見て碧は元気をもらったのだろうか。碧生と同じものを清も見てみたいと思う。 「どんな写真……」 「清ちゅーん!蒼くーん!」  ツキノワグマエリアの次の、サバンナエリアまで見て来たであろう史安が、大きく手を振ってこちらへ走ってくる。 「清。実はこのまる研、シアンさんの手芸部を乗っ取って出来たんだ」  到着したばかりの史安に「そうなんですか?」と問う。 「そうなんだよ、清ちゅん!聞いてくれる?ボクはただ、誰にも邪魔されずに趣味のお裁縫を楽しみたかっただけなんだよ~」  昨日の事のように思い出し、地団駄を踏む史安に、蒼介はくすくす笑う。 「交換条件があるんだ。シアンさんを無事に進級させるっていう」 「そう。その代りに、ボクがコツコツ確保してきた部室やその他諸々を提供してるの」  史安は、1年生と2年生をそれぞれ2回、経験している。「清ちゅんも、よろしくね」と言われ、肩に重いものがのしかかった気がした。 「そんな事より!あっちでパンダのおやつタイムが始まるんだって!けっこう人が集まってきてて、でも碧くんが血眼で、良い場所を探してくれてるから大丈夫!」  確かに、動物園に居る今は、パンダのおやつタイムに比べると進級の心配なんて「そんな事」だ。清と蒼介は、スキップしてパンダエリアへ向かう史安の後に続いた。
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