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「みんなー!こっちだー!」  碧が見つけた場所は、エリアの端の方で、パンダの背中を見ることになるが、その全貌が見られるなかなかの穴場スポットだった。その証拠に、3人が合流して暫く経つと、辺りは大変な人だかりができた。  老若男女がひしめき合い、パンダの食事風景を今か今かと待っている。 「でもパンダって、要するに熊ですよね。小さい子なんか、パンダが道端に居たら猫みたいなノリで近づいてしまいそうですが」 「確かに。パンダの凶暴性って、あんまり伝えられてないな」 「規制が入ってるんじゃない?イメージ壊さないために」 「おっ、何か、まる研活動中!って感じだな!」  そうこうしているうちに、飼育員が笹や果物が入ったバケツを持って登場した。パンダがごろごろ転がりながら、飼育員の傍に集まってくる。その、ひとつひとつの動作に歓声があがる。 「熊なんだけど……か、かわいいですね」 「ねぇ!あの耳!丸みが過ぎる!」  その歓声につられて足を止めたのか、先程より取り巻きの数が増えてきた。後ろから押され、隣の人と軽くだがぶつかってしまう事態が多発する。  「シアンさん、大丈夫?」  蒼介が、心配そうに史安を見る。どうやら、人混みがあまり得意ではないらしい。 「うーん……ちょっと離脱しようかな」  史安が開けた少しの隙間をめがけて、見た目がハデなカップルが強引に割り込んで来た。周りに居た人達がそのせいであちこちぶつかり、眉をひそめる。さらに、男の片手には火のついたタバコがあった。史安はバランスを崩して外にはじき出される。その先に、運悪く子どもが居たので、ぶつからないように無理に体を捻って回避した。結果、盛大に後ろへ倒れてしまう。 「史安先輩!」  一番近くに居た清が、急いでかけつける。それを確認した碧と蒼介は、原因のカップルと対峙する。 「お兄さん達、危ないですよ」 「近くに子ども居ますよね」  長身の男2人に見下ろされたカップルは、悪態をつきながら去って行った。 「わーん!久しぶりに転んだらちょーいたい!」  清が史安の腰を支え、起き上がるのを手伝う。 「史安先輩、手、血が出てます」  清は、史安の左手のひらを観察する。広範囲を擦りむいており、砂と血が混じっていた。捻挫はしていないようだが、打撲はありそうだ。掴んだ手首が細かったので、余計に痛々しく見える。  とりあえず、史安を近くのトイレに連れて行き、血と砂を水道水で洗い流した。傷口がきれいになると、広範囲だが深くはない事が分かり、安心する。ただ、洗ったそばからまた血が滲んできた。 「本部で簡単な治療ならしてくれるみたいです」  トイレから出ると、碧と蒼介がそわそわと近づいてくる。 「えー、大丈夫だよ?おおげさだなぁ」と、元きた道を戻ろうとする史安の腕を蒼介ががっちり掴んだ。 「ダメ。消毒してもらいましょう」  静かな圧力に、史安は従う他無さそうだ。
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