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「オキシドールですか……アクリノールの方がいいなぁ」  いわゆる、迷子待合室の一角で、パイプ椅子と救急箱を貸し出してもらった。清が、透明な消毒液を染み込ませた綿球を傷口に当てようとした時、史安がぼやく。 「シアンさん、文句言わない」 「だってさ、染みるよこれ。絶対」  まだ血が滲む患部を見て、おおげさに震える。 「碧、そっち押さえてて」 「がってんだ!」  2人がサイドから押さえこみ、1人が手を固定する。3人がかりの治療が始まった。 「ねえ!逆に怖いから!あっ……ひあっ……やぁっ!」 「ははっ、なんすか、変な声出さないでくださいよ〜」  碧がツボに入り、押さえている腕が小刻みに揺れる。 「ちょ、碧先輩!揺らさないでください!」 「ああっ、清ちゅん、優しくして……」  大きめのガーゼをサージカルテープで止め、なんとか治療が終わった。全員、軽めの手術の後の様な疲労感に襲われる。特に史安は、一言も発せずガーゼの一点を見つめ続けている。 「史安先輩、大丈夫ですか?」  不安になった清が声をかけるも、反応がない。 「もふもふ……血……パンダ……まるい綿……血……」  呪文的ななにかを呟いた後、徐ろにかばんからスケッチブックと鉛筆を取り出し、取り憑かれた様に何かを描き始めた。 「あ、あの、史安先輩が、えっと」  状況が飲み込めず狼狽える清に、碧がフォローを入れる。 「大丈夫。ただの天才だ」  さらに訳がわからなくなった。 「あの人たちはいつまでいるのだろう?」というスタッフの方々の視線をピシピシ受けながらしばらく見守っていると、史安がスケッチブックをパタリと閉じ、満足そうに深呼吸をした。 「できたー」 「しあさん、お疲れ様です。良いのできました?」 「なかなかにねー、よいよー」 「よかった。楽しみだな」 「ぴぴーんと、降りてきたからね!」  異様な盛り上がりをみせる、まる研のメンバーに、清は1人取り残される。頭上にクエスチョンマークを浮かべていると、碧が懇切丁寧に説明してくれた。要するに、近々新作けも耳が出来上がるらしい。 「う、うわーい!」  その後、思う存分動物園を堪能した。げっ歯類最大と謳われるカピバラの想像をはるかに超えたデカさに言葉を失ったり、フラミンゴの真似をして、史安がまた転びそうになったり、蒼介がミーアキャットに心を奪われ、しばらく動かなかったりした。  蒼介は、「俺は今から、彼らをスリカータさんと呼ぶ」と、別名まで持ち出してミーアキャットを偶像化した。確かに、交代で見張りを立てて仲間を守り、子育てなどは協力して生活するという、ヒトも見習うべき特徴は魅力的だ。「ミーアキャットのけも耳は、社会性が上がる、とか?」などと考えてしまい、気付かないうちにジワリと広がっているまる研の毒に、怯えた。 「最後は観覧車でしめよう!」
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