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「ぶたさんはね、とっても頭がいいんだよ!」   この耳を作った張本人が、A4用紙に細かい文字をびっしり書き込みながら答える。豚耳と言うとどうしても珍味を想像してしまうため、過剰にデフォルメし、ふんだんにピンクを使ったそうだ。ふわふわのピンクのファーが、頭皮の温度をかなり上げていると清は思う。 「1番頭がいいのは、ヒトなんじゃ……?」  的を射た清の指摘に、辺りが静まり返る。蒼介だけは味方だと、すがる気持ちで見ると、ゆっくりと頷いてくれた。 「まあ、でもほら、碧クンに抜群の効果が!」  先程から会話に参加せず、黙々とキーを叩いている碧を一斉に見た。 「碧先輩、今日提出のレポートの存在を忘れてたみたいです」 「しかも後輩に講義ノートを借りて。碧、情けない」  蒼介が、わかりやすいため息をついた。碧はというと、パソコンの画面から目を離さないまま、ミルク味のアメのキャラクターみたいに舌をちろりと出した。 「ああ!!」  史安が悲鳴をあげる。蒼介は、嫌な予感しかしない。 「ボクも、大事に残しておいたレポートの存在、忘れてた~!」 「シアンさん、レポートは大事に残さず、早く消化しといてください!」  蒼介が、レポート課題の詳細が書かれたレジュメを史安に出させ、目を通す。「よし、この講義は諦めよう」と腹をくくる史安に、ぴしゃりと言い放った。 「その1単位が悪夢の始まりになるんです」  期末考査最終日ともなれば、徹夜続きで消耗し、身体と精神の疲れがピークに達している。みんな、余裕がなくなってきているようだ。 「あー!!ムラムラするー!」  史安が伸びをしながら叫ぶ。ここは健全な男子しかいない、全員が苦笑しながらも心の中で同意する。 「あの、少し休憩しましょう。コーヒーでもどうです?」  清が提案すると、全員が採用した。  中粗挽きに挽いたコーヒー豆をあらかじめ温めておいたコーヒープレスの中に入れる。お湯を静かに注ぎ、スマホのタイマーをスタートさせる。粉とお湯を馴染ませてから、2度目のお湯を静かに注ぐ。プレスをセットして、しばし待つ。タイマーが鳴ったら、プレスを押し下げてから、カップに注ぐ。 「どうぞ。今日は4分で淹れてみました」 「清ちゅん、ありがとー」 「うん、いい香りだ」 「ああ、香りだけで安らげるぞ!」  先輩が後輩に甘いのではなく、清の淹れるコーヒーは、へたな店よりうまかった。 「よかったです」  碧は約束通り、豆と器具を自由に使わせてくれた。碧からすれば、本当は店のカウンターごと使わせてやりたいのだが、「光熱費がかかるから」と、清が遠慮した。  コーヒーに舌鼓を打ち、十分気分転換をした後は、作業がはかどった。それぞれ、やるべきことを黙々とやる。  ひとり、またひとりと、戦いを挑みに試験会場へ赴いていった。 「行ってきます。清、もしまだ体力が残っていたら、改装手伝ってくれ」  そう言う碧を見送り、一人残った清はコーヒープレスを片付ける。  自分が淹れたコーヒーを「うまい」と嬉しそうに飲んでくれて、飲んだ後はすっきりした様子でまた頑張れる。その光景を見る度に、清は確かな感覚を掴んでいった。自分はやはり、好きな物を続けていきたい。
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