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 店は、初めて来た時と比べると大分片付いていた。碧が言うには、まだまだ途中でこれからいろいろと雑貨を揃えていくらしい。あと、手すりも必須だ。  木目が美しい、使い勝手のよさそうなカウンターに触れる。清は、ここでコーヒーを入れる自分を想像してにやけ、恥ずかしくなってすぐにやめた。そういえば、碧先輩は俺がコーヒー好きな事、よく覚えててくれたな。周りからいろいろ言われるのが嫌で、公にはしてこなかったはずだが。  2階へ上がると、大きなソファとローテーブルが置かれていた。以前碧が、寺井さんが置き場所に困った家具を一時保管していると言っていた。それにしてもこの大きなソファ、一体どう運んだのだろう。 「あー、なるほど」  棚に片づけられていた白いうさ耳を見て、清は合点がいった。  店に来たのはいいが、何から手を付ければいいか分からない。碧に聞いておくんだったな、と反省する。清はソファに腰かけて少し休むつもりが、思ったよりもふかふかのソファに不意を突かれ、睡魔に襲われた。   「あれ?まだ誰も来てないね」  戦いを終えた史安と蒼介が店にやってくる。 「もしくは、もう終わったのかも」 「えっ、無駄足?確かに、来るのに結構時間かかっちゃったもんね」  5時限目に試験があったため、終わるころには帰宅ラッシュと重なり電車が混んでいた。陽が長くなったのでそんなに遅くない気がしていたが、時計は7時を回っていた。 「えーん、動きたくないよー。ちょっとだけ、休んでから帰ろ」 「そうですね」  二人は並んで、チェアに腰かける。蒼介が史安の手を握り、ゆっくり引き寄せてキスをした。 「もー、なに?」  史安が照れたように笑い、蒼介の胸を押す。 「シアンさんが、昼にあんなこと言うから」  史安は、疲れて動きの鈍い頭で昼の自分の行動を思い出す。そして、おそらく正解に行きついた。 「ムラムラする?んっ……」  蒼介が再び、史安の唇を奪う。じっくり啄むようにキスをしていると、最初は強張っていた史安の身体から、徐々に力が抜けていった。 「もう!ストップー。ボク結構疲れてるんだけどっ?」  史安の制止の声は、夢中になっている蒼介には届かない。史安は、テーブルの上のカゴに入っていたけも耳をつかみ、蒼介に着けた。 「待て」  蒼介の頭には、焦げ茶と茶色のグラデーションで、耳の先が少し垂れているのが特徴的な、ラフコリーのいぬ耳がある。 「うん。蒼クンはいぬ耳が似合うねぇ」  ちゃんと「待て」ができた蒼介の頭をわしわしと撫でてやる。蒼介は、大きなため息を吐きながら、脱力ついでに史安を抱きしめた。 「……しばらく会えなくなります。就活しなきゃ」 「そっか、3年生だもんね。がんばれ~」 「シアンさんもね。俺が就職して安定し始めた1年後に、呼びますからね。卒業、ちゃんとしてくださいよ?」  当たり前のように、新しい生活を二人で始めることを考えてくれている蒼介に、史安は頬が緩むのを止められない。それを隠すため、蒼介の背中に手を回し、ピタリと密着した。同時に、二階の方からカタン、と言う軽い音が聞こえた。 「誰か……居る?」  蒼介が、焦りの表情を見せる。それでも、自分を抱きしめている手を離さない事に、史安は愛を感じた。 「居ないよ……風かなんかじゃない?それより、もっかいちゅーして?」 「うっ……イヤです……多分俺、キスだけで終わんない」 「出たな、むっつりそうすけべえ!」  史安が立ち上がり、蒼介の頭からいぬ耳を外す。それから額に軽くキスをした。 「じゃ、帰りますか」  二人並んで、手を繋ぎ、歩き出す。 「そーいえばあの二人。今後どうするの?」 「碧にはプレッシャーかけてます。バレないように、じわじわと」  とても楽しそうに言う蒼介を見て、史安は「基本Sだな」と、再確認した。 「じゃあこの夏に、進展あるかもね」  史安は、碧にもらった合鍵で店の扉に鍵をかける。かけたあと、扉に向かって「さあさあ、悩んでね~」と、蒼介に気付かれないように手を振った。
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