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「え……?」
史安が清の頭上を指さす。ニコリとほほ笑みゆっくり頷いた。まるで大きな力を持つ神のような振る舞いだ。まさか、と思い頭に触れると、指先が、ふわふわなアレの存在を確認した。
「ねこ耳つけちゃいました~」
「い、いつの間に!?」
頭にねこ耳をつけている事に全く気付かなかった自分にも驚いたが、いつつけたのか全く分からない史安の身のこなしの方が驚きだ。まあ、それだけ自分に隙があったということか、と清は反省した。
何だか暑くなってきた、いつまでもつけていられないなと思い、清が慌てて外そうとすると、史安がとてもかなしそうな顔をする。
「せっかく、一生懸命作ったのにな……」
今日の朝から、史安はひとつひとつ心を込めて丁寧に作り上げていた。作業を開始してから、3時間は経過しただろうか。「最後の仕上げをミシンでしてしまうと、温かみがなくなる」と、時間をかけて手縫いで仕上げていた。ミシンで仕上げをしたものと手縫いのものを見比べさせてもらったが、素人の清にもわかる程、確かに手縫いの方が、丸みがあって優しい感じに仕上がっていた。テーブルの上に置かれた段ボールの中に、その努力の結晶がたくさん入っている。10個は超えているだろうか。自分の頭につけられた、ねこ耳に伸びていた清の手が、ピタリと止まる。
「も~清ちゅん優しい~」
清は、上手く言いこめられたのか、と気づき、再びねこ耳の呪縛から解放されようと、自分の頭に手を伸ばす。それを阻止するかのように、史安が抱きついてきた。
「好き~ぎゅーってしていいかな?」
「も、もうしてますっ!」
小柄な体からは想像しがたい強い力で、抱きしめられる。清は抵抗するが、抜け出せる気配がしない。
「ちゅーもしちゃおう。ちゅー」
史安が、わざと「ちゅう」と、大きな音を立てながら、清の右頬に軽くキスをする。
「うわあああ!ホントにしたあああ!」
あれは、碧の店で見たあの光景は、付き合っているとかそういうのじゃなくて、もしかしてこんなノリだったのではないか。恋人同士みたいな空気感は、自分の勘違いだったんじゃないか、と、先程まであんなに悩んでいたことが崩れ去る勢いで、清がプチパニックに陥っていると、部室のドアが開き、蒼介が入ってきた。
「シアンさん、手芸用のボンド買ってきた……何してんの?」
蒼介の目に飛び込んできたのは、ピンク色のねこ耳をつけた涙目の清と、その清にタコのように絡みつく史安の姿だった。
「蒼介先輩!たすけてー」
「うへへ~よいではないか、よいではないか~」
部室棟に、清の悲痛な叫びが木霊した。
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