3人が本棚に入れています
本棚に追加
22
「それで?なんで清を襲ってたんですか?シアンさんは」
あの後、蒼介が清から史安をひっぺがし、放心状態の清に「シアンさん、寝不足が過ぎてテンションがおかしいんだ。許してやってくれ」とフォローを入れた。清は、数時間後にバイトの面接がある、との事で帰って行ったのだが、悩みすぎたとか何とかで、なんだかフラフラしていた。大丈夫だろうか。何を悩んでいたのか、蒼介は少し心配になる。
「あれ~?蒼クン、やきもち~?」
ねこ耳を器用にラッピングしながら、史安が茶化す。
「いえ。ただただ、清が不憫だなと思いました」
少し強気に、じっとりとした目で史安を見る。
「だって、清ちゅんピンクのねこ耳バージョン、かわいかったんだもん。かわいかったでしょ?」
そこは否定できないが、ただそれだけであそこまでのパフォーマンスにはならないだろう。思いあたるのはただ一つ。
「碧関連ですか?」
「わっ!名探偵!」
「どうも」と、頭を軽くおさえた後、蒼介もねこ耳の出荷準備を手伝い始める。史安のねこ耳は、クオリティが高くデザインも好評価で、フリマアプリに出品し始めて間もないが、好調な滑り出しを見せている。一日に作れる量が限られているので、もう少し値段を上げてみてもいいんじゃないか、と、蒼介は思っている。
「簡単に言うとね、清ちゅんが、蒼クンとボクが付き合ってるんじゃないかって思っててね、それを碧クンが知ったらどうしよう、って悩んでたんだと思う」
「何でまた、清はそんな仮定を」
蒼介と史安が恋人同士という事は、当の二人以外誰も知らない。史安が街中でいちゃつくカップルをよく思っていない事を知っているので、蒼介もあからさまな事はしないし、他人に話してもいない。史安と蒼介の違いは、積極的に隠そうとしているかいないかの差だ。
「仮定じゃなくてね、見てたんだ。ボク達のぉ……キスシーン!」
積極的に隠そうとしないということはつまり、バレたら誤魔化す必要はない、という事だ。
「あの時の物音、清だったんですね。俺は別に、碧と清になら宣言してもいいけど」
「え!蒼クンが二人のために言わないって言ったじゃーん」
「あ、そうか。自分で自分の気持ちに気付くまで、何もアクションしないんだった」
「そうそう。だからボクは、自分がキス魔であると清ちゅんに植え付けてさ、あのキスは挨拶みたいなものだよー。怖くないよーって、思わせたのです」
「えへん」と史安が胸を張る。蒼介は「偉いです」と、拍手する。
「でもさ、清ちゅんが碧クンへの気持ちに気付くのは、まだまだ先になる感じだったよ?」
長い付き合いだ。蒼介にはその感じが痛いほどわかった。
最後の一個の出荷作業が終わり、ふーっと一息ついた。
「シアンさん、なんかいい案ないですか?」
清と碧、二人が自分の気持ちに素直になり、互いに歩み寄り、想いを伝えあえるようになるまでの最短ルートとなる案は。
史安が唐突に「ふぉふぉふぉ」と、どこぞの宇宙人のような笑い声をあげる。
「だから、夏があるのですよ。蒼介さん。夏は人を大胆にさせる……」
史安が、部室の隅に追いやられたホワイトボードの方へスキップで向かい、ボードをひっくり返す。そこには、なんだかずいぶん前のように感じられる、碧の字が並んでいた。その一か所をバンバン叩く。
「夏!合!宿!ここで二人の距離をぐっと近づける作戦を実行しよう!」
「おー」の音頭に合わせて、蒼介も軽く拳を突きだす。
「それで、その作戦というのは?」
「それは……CMの後で」
「考えてないんかい!」という、滅多に見られない激レアな、蒼介の軽快なツッコミが入った。
最初のコメントを投稿しよう!