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 本当に動物の耳が入っていたのならば、平和な空気は一変、オカルティックなやばい奴らの集まりになってしまうので、ここで断りを入れておくと、金庫の中には動物の耳を模した手芸作品が入っている。男女問わず、アイドルが小道具でよく使う『ネコ耳』と言うと解かりやすいだろうか。その、犬だったりクマだったり、色々な動物の耳が、保管されている。ただ清は、そんな事はまだ知らない。 「うわぁっ!」  金庫の中から視線を外せないまま、隣に居た碧の腕にすがりつく。動物の耳が整然と並んでいる光景は、不気味以外の何物でもない。内部が薄暗く、ぼんやりとしか見られない事が清の恐怖心に拍車をかけた。 「せ、せ、清、大丈夫、全部作り物だ」  全身を強張らせ、少しうわずった声で、けれども十分な音量で、碧が言った。鼓動が外に漏れていないか、心配になる。 「へっ?」  清が、まだ信じられずに目を凝らして金庫の中身を見る。どう見ても、動物の耳である。  蒼介が、一番手前にあった犬の耳を取り出した。部屋の明かりに照らされて、その全貌が明らかになる。  明るい茶色の、もふもふとした耳がふたつ、黒いカチューシャにくっついている。清が想像していたような、グロテスクな感じや剥製感はなく、少しリアルなぬいぐるみのような印象を受けた。  蒼介がカチューシャを装着して、清が見やすいように屈み込む。 「秋田犬の耳。シアンさん作」  その犬耳は、近くで見ると細部までこだわっていて、ふわふわで、触ると気持ちよさそうだ。清は欲望に逆らえず、蒼介の頭に右手を伸ばした。 「もふもふ……」 「清、気をつけるんだ。蒼介は今、少し攻撃的になっているぞ。秋田犬は、賢くて忠誠心もあるが、慣れていないと攻撃してくるんだ」  清は急いで、掴んでいた碧の腕を離す。この人はいったい、何を言っているのだろう?救いを求めて蒼介を見ると、肩をすくめた。 「このけも耳はね、モデルとなった動物の性格が反映されてるんだ。だから、装着した人も影響を受けるんだよ。例えば……」  史安が金庫の中から取り出したのは、灰色の猫耳で、先の方がちょこんと折れていた。  動物の耳を『けも耳』と呼ぶのか、と、清は一つ、単語を覚えた。 「これは、スコティッシュフォールドの耳で、つけると甘えん坊さんになるよ」 「にゃー」と鳴き声を真似ながら、史安が清に抱きつく。困惑、という文字が浮かび上がってきそうな顔で見つめられた蒼介は、危うく吹き出してしまうところだった。ニヤついた顔を誤魔化すためにも、清の肩に掌を乗せる。 「赤を見たら興奮するとか、カラーセラピー的なアレで……」  金庫の耳を1つずつ取り出して机に並べ始めた碧を手伝いに、史安が清から離れた後、蒼介は「……乗り切ろう」と続けた。  清は、決意した。 「……あの、申し上げにくいんですが、入部はやめておきます」
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