3人が本棚に入れています
本棚に追加
6
「それで?かわいい清ちゅんとは、どーゆー関係なの?」
やっと二人きりになった部室で、史安が蒼介に精一杯冗談めかして問う。口元は笑っていても半分本気なその表情に、蒼介は嬉しくなる。
「シアンさん、やきもちですか?」
「ち、違うし!」
勢いよく体を反転させ、背を向けた史安の耳が赤くなっていく。蒼介が耳をツンツンつつくと、手を払われた。
「清と俺の関係は、ちょっと難しい」
そう言って、部室にあるホワイトボードに相関図を書き始める。ゆるい似顔絵付きで、分かりやすさを追求していた。蒼介の描くイラストは、描いた者が高身長でがっちり体型であることを感じさせない、程よい脱力感のあるかわいらしいものだ。
「碧は、清が俺を好きだと思っていて、清は、碧が俺を好きだと思ってる。清は碧が好きで、碧は清が好き」
ゆるい似顔絵に、矢印とハートマークを書き足す。清、碧、それぞれの視点で描かれた2つの三角形が出来上がった。史安の鋭いツッコミが入る。
「全然難しくないし!1組成立してるじゃん!」
「ところがどっこい。碧は清の幸せを願い、溢れる想いに蓋をして、清はこの感情が何なのか、気付いていないという。そして早いもので、この関係が5年前から続いてる」
「君達マイペースすぎるよ!」
「この相関図は現時点の物で、少しずつ形成された」とか「ここに至るまで、何度か危機を乗り越えてきた」とか、蒼介が弁明する。自分達の清春が軽くならないように。無駄な時間など1秒も無かったと、証明するために。けれど史安には何1つ響かなかった。
「蒼クンがさ、真実を言ってあげれば済むんじゃないの?」
史安が矢印とハートマークを1つずつ消していく。あっという間にカップルが成立した。蒼介は首を横に振ってから、相関図を綺麗さっぱり消していく。
「ダメ。自分で悩んで、確かめて、伝えて、そうしないときっと傷つくし傷つける」
まっすぐな瞳で史安を見つめる。
「……そうだね。一生懸命伝えてくれたら、嬉しいし」
史安が手を伸ばして蒼介の髪を梳く。くすぐったい、と微笑んで、お返しに額へキスを落とした。
「あと、見てておもしろい」
清と碧がお互いに勘違いしながらあたふたしている場面が容易に想像できる。とても微笑ましい、と史安は思った。けれどもそれを5年も見続けて、まだおもしろいと感じて傍観をきめこむとは。
「……サディスティックにも程がある」
「俺なりの、愛の鞭」
胸を張って答える蒼介に、長い溜息を吐く。了解、と、史安も、このもどかしい2人をただ見守る事を決めた。
最初のコメントを投稿しよう!