幸福を喰む

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   ■ ■ ■ 「そういや、最近あんまり聞かねぇな」  沢でザリガニ釣りをした帰り道。  三津影山の麓。手製の釣りざおを肩に担いで先頭を歩く胡鶴が足を止めた。振り向いて山の様子を見やるが、もうあの悲痛な慟哭は聞こえてこない。 「やっぱ風のせいだったのかね」  思案顔で首を傾げる透真の言葉を「まさかぁ」と凌がのんびりした声で否定する。  不思議そうに目を瞬かせてこちらを見る2人に、凌は訳知り顔でにっこりと笑って見せた。 「もう寂しくないからだよ、きっと」  そう言う彼のそばを、強い風が山の方へ向かって通り抜けた。ざわざわと木の揺れる音が重なっては消えていく。  けれど、山はひっそりとしていた。
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