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序章
自分が生きているわけを知りたいのなら
朝陽が地平線に昇る前の色づきはじめた東の空を見ればわかるよ
毎朝、ユッキーと眺めているよ
(シーのつぶやき、犬語訳ユッキー)
すべてのまことのひかり…
朝陽が地平線に昇る前、東の空は底辺から濃淡のついたあけぼの色に染まっていました。
やや明るさを帯びたうす青い空は、雲ひとつありません。
アッシュブラウンの髪にTiffanyのsilverのサークルピアスをしたおとこユッキーと、白とゴールドの体毛のシーズーのシーが、国道4号線の交差点のかどにあるラーメンチェーン店の待機用の簡易なベンチに腰掛けて、東の空を眺めていました。
シーはおすわりをしたままその丸くつぶらな瞳でユッキーに視線を向けたあと、じっと東の空を見つめます。
ユッキーもシーを一瞥してから、1通の手紙を掌にして同じく東の空を見つめます。
かれの小学校の恩師であった懐かしい、黒く長い髪と銀縁メガネの、聡明で優しかったナオミ先生から届いた手紙…
小学校時代に過ごした東北地方の太平洋沿岸の小さな農村の風景が蘇って来ます。
白い砂浜の広がる海、なだらかな稜線の続く阿武隈山地、稲穂が黄金色に輝く田園とその真ん中の盛り土に聳える「一本松」、そしてなにより国鉄官舎裏にあったあの「森」…
どれも懐かしく厳かな風景です。
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