纏わりつくような暑さは、むしろ心地よかった。

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 奇妙な変化が訪れた。あれほど僕を苛んでいた空腹が止んだのだ。僕は知っている。十分に食い太った幼虫が次に何をするか。蛹化である。  僕は雨に濡れたあとのない、木陰の強そうな枝を選ぶと糸で体を固定した。  そして、今までかぶっていた、目玉模様の幼虫の皮膚を脱いでいく。頭から、手足を使わず、這いまわるときに似た蠕動運動でじわじわと脱いでいくのだ。片足だけで靴下を脱ぐようなかったるい作業を続ける。これも早く済ませなければならない。時間がかかると中途半端に皮膚を残したまま体が硬くなってしまい、苦しい思いをするのだ。動けない状態での苦しい思いはすなわち死に直結する。  じたばた、うねうねと必死で今まで被っていた面を脱ぐ。人間はこんなに大きく形を変えることはない。何とも奇怪な変化であった。すぽんと脱げ落ちたそれを見ることもできない。僕にはもう視野はなく、辛うじて明暗を感じることしかできなくなった。  緑色の中に閉じ込められた僕は、これから数日をこのまま過ごさなければならない。空腹はない。喉の渇きもない。しかし、固い外皮以外の感覚がない。  蛹の中で一度、蝶というのはどろどろになる。一部の神経や筋肉を残して、内臓も大きく変わってしまう。感覚がないのはありがたいことだった。もしこれに感覚が伴っていたら。体を作り替える感覚が如実にわかるとしたら。考えるとぞっとする。人間の成長痛だって痛いのだ、きっともっと痛いに違いない。
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