纏わりつくような暑さは、むしろ心地よかった。

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 僕は人であったはずだ。少しの間昼寝をしようと寝転がっただけ。それが布団の上であったか、芝生の上であったかはどうも記憶がおぼろげだ。もしかしたら柑橘の木の下で寝たのかもしれない。だからこんな奇妙な夢を見ているのかもしれない。  しかし、夢というには随分と感覚がはっきりしすぎている。  つやと光る葉を幼い顎でじゃくじゃくと食んでいく。一心不乱に食べていないと、空腹感で死にそうなのだ。食べて食べて食べて、何日食べ続けただろう。食べながらろくすっぽ見えない目で自分の身体を見る限り、緑色をしている。  柑橘の葉を食べるところからして、恐らく自分はアゲハの五齢幼虫であろう。背中に一対目玉の模様がついた、よくいる芋虫である。たくさん食べに食べて、体はここまでブクブクと大きくなった。ここに至るまでは鳥の糞のような姿で這いまわらなければならず、人間であったはずの意識はなんとも惨めな思いをした。今もそうだ。頭に対してやたらと大きく膨れ上がった体は、自分が醜く太ってしまったように思えて気色が悪い。  それだというのに空腹で、体力の限界まで食べ、眠るというのを繰り返さなければならなかった。緑色の、体の三分の一はあろうかという糞をひり出すたびに泣きたくなったが、芋虫に涙腺はない。僕はいつ、人間に戻れるのだろう。
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