捨て猫

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私の名前は橘ルイ。 小さい頃に両親に捨てられて施設で育った。 《たくさん勉強して賢くなれば、両親が必ず迎えに来てくれる。》という施設の先生の言葉を信じて勉強を頑張った。 だけど、中学生になった頃、どんなに頑張っても両親が迎えに来ることは無いと悟った。 それからの私は自分自身のためだけに勉強を頑張り、大学に進学して、施設を出た。 そして、今の彼と出会い、一緒に住むようになった。 身体を傷つけられることよりも、私にとって捨てられることの方が怖くて、彼の言いなりになっていた。 でも、今夜、そんな彼に、いとも簡単に捨てられることに…。 バイトが終わった私は、夜の繁華街でバーテンダーをしている彼の仕事が終わるのを店の前で待っていた。 「お嬢ちゃん何してんの?」 「……………。」 「口がきけないのか?」 私は、いつものように黙って、ブンブンと首を横に振った。 「若、お時間が…。」 「あ?わかってる。ちょっと待て。」 彼を待っている間に、酔っ払ったサラリーマンに声をかけられることは、よくあった。 でも、今夜の人は、いつもの感じと明らかに違う。 〈……………こわい。〉 「こんなところで一人でおったら危ないぞ。俺と一緒に行くか?」 「若、連れて行くのは、ちょっと。」 「車の中で待たせてたら良いだろ?」 「……………あ…あの…。」 「お!口、きけんじゃねーか。」 「彼を待ってるので…。」 「あ?彼氏?」 「は…はい。」 「どこいんの?」 「そこ。」 私は目の前のバーを指差した。 「ちょっと、待ってろ。」 「え?」 カランカラン 「いらっしゃ…。」 「あのさ。表で待ってる娘(こ)の彼氏いる?」 〈何か話してる。何を話してるんだろう。〉 「さ、行くぞ。」 「え?」 手首を捕まれて、私は引きずられるように歩いた。 歩いている最中、呼び込みをしている人たちが、私の前を歩く男に頭を下げて挨拶をする。 声をかけられた時から何となく気づいていたが、この男は裏の稼業を営む人間。 〈私は、とんでもない人間に捕まってしまった。〉と、思うと同時に、自分の運の無さにほとほと嫌気がさした。 繁華街を抜けた先の駐車場につくと、漆黒の闇に同化してしまいそうなほど真っ黒な車が目の前に現れた。 時折、真っ黒なボディに、繁華街のネオンが反射してキラキラと輝きを放っている。 「乗れ。」 私は後部座席に押し込まれた。 「俺が戻って来るまで、此処で待ってろ。」 そう言って、男を若と呼ぶ付き人のようなおじさんと一緒に、再び繁華街へと消えた。 窓には黒いスモークが貼られ、真っ暗で静かな車内、何をするでも無く、何を考えるでも無く、子供の頃のように簡単に捨てたれた現実が、ただただ胸を締め付けていた。 ガチャ。バタン。 どのくらいの時間が経っていたのか不明だが、車のドアが開き、若と呼ばれている男が隣に座った。 「待たせた。逃げれたのに、よく逃げなかったな(笑)」 腰に腕がまわってきた。 「若。どちらへ向かいますか?」 運転席のおじさんが話しかける。 「俺の部屋。」 おじさんは黙って、車を発進させた。 〈私は、どうなるんだろう。〉 しばらくすると、《俺の部屋》という場所に着いたようだ。 見上げると首が直角に折れ曲がるほどの高層マンション。 エレベーターが私と男の二人を乗せて静かに登っていく。 一瞬体がふわっとなってエレベーターの扉が開き、目の前に大きなドアが現れた。 そのドアを男が開けると、室内からの風に乗って大人の香水の香りが私の鼻孔を通り抜けた。 中に入ると、最初に目に飛び込んで来たのは、映画に出て来そうな…全面に夜景が広がる窓で、その手前には大きなベッド。 男は、高そうな指輪や腕時計を外しながら私に話しかけてきた。 「突っ立ってないで、そこ座れ。」 私は、近くのソファに座った。 「若。買ってきました。」 「ありがと。この子に渡して。」 私は紙袋を手渡された。 中身を見ると下着だった。 〈何、これ?〉 「風呂に入ってこい。」 「……………はい。」 〈言いなりになるしかない。私は、ついさっき、彼氏に捨てられて、目の前の男に連れて来られ、逃げようにも行くところが無いのだから。〉 さっきもらった下着を持って、脱衣所で服を脱いでいると、急に脱衣所のドアが開いた。 ガチャ 私はビックリして固まった。 「全部脱げ。」 「……………。」 私は言われた通りに全部脱いだ。私の身体を舐めるように見つめる目。 〈怖い…。〉 男が近づいてきた。 〈ここでやられるんだ。〉 そう思って、ギュッと目を閉じた。 部屋のドアが開いた時に、鼻孔を通り抜けたのと同じ香水の匂いがした。 〈え…?〉 私は抱きしめられていた。 「ツラかったな。」 男が言っている意味がわかった。 「なんでわかったの?」 「あんなトコに大事な女を待たせるとか普通の男はしない。だから、お前が男を待ってるって言った時にわかった。どんだけ殴られてたんだよ?」 「ほぼ毎日…。」 さらに強く抱きしめられた。 体に付いた傷が痛む。 <私の涙はもう枯れ果てて出ない。>そう思っていたのに、冷たい頬を熱いものが伝う。 私は男にしがみついて全身を震わせて泣いた。 「シャワー浴びてこい。」 「うん。」 男は何もせずに、脱衣所から出て行った。 洗面台の大きな鏡が私の身体を写す。 服で隠れる場所のすべてにアザ。 見慣れたアザ。 見慣れた傷。 洗っても落ちない。 シャワーを浴びて部屋に戻ると食事の用意がしてあった。 「腹減ってないか?」 「……………減ってる。」 「味に保証はねぇーぞ。」 「作ったの?」 「これぐらいは、作れる。」 私達は向かい合ってダイニングテーブルに座った。 「お前、名前は?」 「ルイ。」 「歳は?」 「二十歳。」 「は?まじ?俺、十六位だと思ってた(笑)俺と三つしか変わんねーの?(笑)」 「え?」 「ルイ。驚きすぎ!(笑)」 「だって。」 名前を呼び捨てにされてドキっとした。 でも、それ以上に男の笑顔にドキドキした。 〈この人はこんな風に笑う人なんだ。〉 「老けててわりーな(笑)」 「名前は?」 「俺?マヒル。」 「マヒル?」 「変わった名前だろ?昼の十二時に生まれたから、真っ昼間を少し変えて…マヒル(笑)あり得ね~よな?(笑)」 マヒルは自分の事は語らず…私の生い立ちから今に至るまでを聞いてきた。 私を捨てた両親のことも、彼氏のことも…。 会話の中で見せるマヒルの笑顔は、私の心を少しずつ溶かしてくれた。 それからの生活は一変した。 私の心は、マヒルと過ごす時間とマヒルの笑顔とに癒されて行った。 私の一日は、マヒルの部屋から大学へ行き、終わったら、迎えの車でマヒルの部屋へ帰る。 マヒルと晩ご飯を一緒に食べて、そのままマヒルの部屋に泊まる。 マヒルは夜中に居なくなる時もあるけれど、朝には帰宅しているので、朝ご飯も一緒に食べる。 今日もいつものように晩ご飯を食べていると…。 「ルイ。」 「ん?何?」 「今日一緒に風呂入るぞ。」 「え?…うん。」 〈なんで、急に一緒に入るんだろ?〉 毎日身体の傷をチェックされているから、見られることは慣れているけれど、マヒルの身体を見るのは初めて。 〈なんだか、緊張する。〉 脱衣所で、先に上半身を露わにしたのはマヒルだった。 想像はしていたものの、初めて見る刺青に目を奪われた。 背中と胸と腕と見惚れるほどキレイだった。 それと同時に現実を思い知らされた。 「怖いか?」 「ううん。大丈夫。」 「明日、パーティがある。」 「うん。」 「お前も連れて行く。」 「え?いいよ。私部屋で待ってる。」 「いや、もう連れて行くって言ってあるから。」 「着るもの無いし。」 「みんな水着だから。着るもんは、テキトーでいい。お前は、まだ傷があるから水着を着なくていい。」 「え?みんな水着なの?」 「うん。でかいプールのあるホテルを貸し切って、ファミリーで遊ぶ。俺みたいな奴が何十人と集まるから、見慣れとけ!」 「今日の明日って、無理じゃない?」 「今日一晩、上半身裸で過ごすから、頑張れ!」 「う、うん。頑張るよ。」 〈でも、その頑張り必要かな〜?(笑)〉 そんなことを思いつつ、上半身裸のマヒルと過ごした。 翌日、迎えの車に乗ってパーティ会場へ。 「ルイは、俺から離れるなよ。」 「うん。」 〈スゴイ人数。〉 女性も綺麗でビキニばかりで、目のやり場に困る。 男の人達は、みんなマヒルのような体で、これだけの人数が居ると嫌でも見慣れる。 〈昨日の特訓は必要なかった。〉 と、思った。 「ルイ。」 「ん?」 「ちょっと、待ってろ。」 「うん。」 私はプールサイドに座った。 直ぐに私と歳が変わらない位の《ちあき》という名の可愛らしい子が近寄ってきた。 「こんにちは。」 この一言で、この子が嫌な女だと直感した。 「こんにちは。」 「ルイちゃんって、マヒルさんと一緒に、住んでるんでしょ?」 「うん。」 「マヒルさんって、エッチ上手だよね?指使いとか、思い出しただけでイキそうになるよね?」 「私、知らないから。」 「うそ?やだ、ほんとに?」 「うん。」 突然、彼女は笑いだした。 「噂、ほんとだったんだ!」 「噂?」 「マヒルさんが、捨て猫拾ったって(笑)ルイちゃんは、マヒルさんのペットなんだね(笑)飽きられたら、また捨てられる。その時は、私が段ボールを用意してあげるね(笑)」 そして、彼女は、更に大きな声で…。 「マヒルさぁぁぁぁん。どうして、この子のこと抱かないのぉ?ペットだからぁぁぁぁ?(笑)」 一瞬にして、その場に居た全員が私を見た。 私はどうして良いかわからずに下を向いた。 すぐに、何処からともなくマヒルの声がした。 「誰が俺のペットだって?ルイは、俺の女だ。大事にしてんだよ。ルイに手ぇ出した奴は海に沈める。たとえ女でも容赦しねぇかんな(笑)」 マヒルが私の近くに来た。 「ルイ、部屋に行くか?」 「うん。」 「何で、あんたみたいな子が、マヒルさんのお気に入りなの?全然わかんない!」 「ちあき、お前は俺のお気に入りだ。ルイは俺の女だ。ただ、それだけだ。そして、お前は、飲み過ぎだ(笑)」 そう言って、マヒルがその場の雰囲気を和ませた。 でも、私のことを見る、ちあきの視線が痛かった。 「大丈夫か?」 部屋に入ると直ぐにマヒルが聞いてきた。 「うん。ごめん。」 「お前が謝ることは、なんもない。側に居てやれなかった俺が悪い。もうちょっとだけ、我慢してくれるか?」 「うん。」 「カギは、俺が持って行くから、絶対にドアを開けるな。あと、部屋から出るなよ。」 「うん。わかった。」 マヒルが出て行った後、張り詰めていた緊張が一気に解けて、私はベッドに横になり、深い眠りに落ちた。 急にベッドが揺れ、私は、深い眠りから少し目覚めて、まどろんでんでいた。 「ルイ。」 「ん?」 「起きれるか?」 「うん。終わったの?」 「まだ終わってない。今日はココに泊まる。」 「うん。」 「外の空気を吸いに行くぞ。」 私の手を握り、昼間よりも小さいプールのプールサイドへ連れて行ってくれた。 「うわぁ。キレイ!」 プールサイドには無数のキャンドルが置かれていた。 しかも、アロマオイルの香りも。 プールの中もライトで照らされていて、水が揺れる度に幻想的になる水面。 「気に入ったか?」 「え?これって私のために?」 「今日のお前、全然笑ってないから。やっと、ルイの笑顔が見れた。」 「ありがと♡」 「今日は、一緒に飯も食ってないし、まともに話もしてないからな。」 私達はプールサイドに座って、足をプールの中に入れた。 マヒルは私の後ろに座り、後ろから腕を腰にまわしてきた。 私の肩に顎を乗せてきたので、頬に当たるマヒルの髪がくすぐったい。 でも、そんな事よりも、マヒルが近くにいることが嬉しくて、二人でずっと揺れる水面を眺めていた。 「ルイ。」 マヒルの声が耳をくすぐる。 「なに?」 「プール入るぞ。」 「え?無理だよ!水着きてないもん。」 「そのままで大丈夫だ。」 そう言ってマヒルが先に飛び込んだ。 「うわっ、やらかした!」 「どうしたの?」 「携帯、ポケットに入れたままだった(笑)」 「ダッサ!(笑)」 「明日、携帯買いに行くぞ。ついでにお前の分も買う。」 「え?要らないよ。」 「しばらく、仕事で家を空ける。お前に毎日会えないから。毎日連絡する。」 「うん。」 「そんな顔すんな。」 「きゃっ。」 プールに引きずりこまれた。 ビックリしてマヒルに抱きついた。 マヒルの顔が鼻先にある。 顔が近い…。 マヒルと目があった。 たまらず目を逸らすと…。 「ルイ。俺を見ろよ。」 「……………。」 「見ないとキスするぞ。」 そう言われて、ガン見した! 「ぶはっ(笑)ルイに、そんな目で見られたら。」 マヒルは首を傾けて、唇を近づけ… 「キス、したくなるだろ」 そう言って、唇を重ねてきた。 とても優しいキス。 何度も離れてはくっつく唇。 マヒルの舌が入ってきて、私の舌をそっとなぞり、舌先で口の中を弄る。 「若!」 「マジかよ!」 「若!オヤジから電話です。若の携帯繋がらないからって。」 「あー。プールに沈んだからな。」 ちょっと不機嫌になったマヒルの顔が可愛かった(笑)。 私をプールサイドに座らせてから、マヒルは電話にでた。 「仕事の話だったの?」 「うん。」 「危ない事しないでね。」 「お!ルイがそんな事言うなんて珍しいな!」 「私だって心配するよ。」 「んじゃ、無事に帰ってきたら、ご褒美にやらせて。」 「あはは(笑)。いいよ。今すぐでも…。」 「ダーメ。」 「なんで?」 「お前の体には、まだ前の男が付けた傷が残ってるからな。お前の全部を俺のもんにしたいのに、傷は俺のもんじゃないから嫌なの!」 「ぷっ(笑)。そんな理由だったんだ(笑)。なんか…カワイイ(笑)。」 「お前、今、俺のこと小さい男だと思っただろ?」 「そんなことないよ。だって…マヒルはあれだけの人数を纏めてるんだもん。凄いよ。今日だって、一人一人の話を聞いてあげてるんでしょ?」 「ルイはよく見てるな…俺のこと。あいつらの話も聞いてやんねーと…ストレス溜まって爆発するからな(笑)あいつらバカだから、直ぐに俺の為に死のうとすんだよ。あいつらにだって守りたいもんあんのに、死なすわけにはいかないからな…。俺にも守りたいもんできたし…俺も死ねねーな(笑)」 そう言って、マヒルは満面の笑みで私を抱きしめた。 《この時間がずっと続けば良いのに。》そう思った。 部屋に戻り、シャワーを浴びようと濡れた服を脱いでいたら、いつも通りにマヒルが私の身体をチェックする…はずなのに…マヒルも脱いでる? 「なんで脱いでるの?」 「あ?一緒にシャワー浴びるため」 「どうして?」 「理由がないと一緒に風呂も入れないのかよ?」 「そんなことないけど…なんか、恥ずかしい。」 「ほら、入るぞ!」 シャワーを浴びながら、頭を洗ってもらったり、洗ってあげたり、それでもマヒルは私に触れることをしない。 「マヒルは、私としたいと思わないの?」 「あ?思うに決まってんじゃん!健康な二十三歳だぞ(笑)」 「でも、全然そんなことしないじゃん。」 「さっきも言ったけど、お前の傷が治るまではやらないって、決めてるから…。」 「この一ヶ月。んじゃ、どうしてたの?」 「何が?」 「その…あれ…。」 「おまえ、そこは聞いたらダメだ。男のデリケートな部分だぞ(笑)」 「デリケートって言葉が似合わないよね…(笑)」 「うっさいな!出るぞ!」 「マヒル?」 「あ?」 「その…してあげてもいいよ…。」 「おま、何言ってんだよ。出るぞ!」 「でも…ココ大きくなってるし…(笑)」 「そりゃ、健康な二十三歳だから…。」 「ふーん。」 「ば…あ、ルイ…。」 私は大きくなったマヒルのソレを口の中に入れ、舌で先端の割れ目をなぞり、サオとの段差を舌先でチロチロとくすぐった。 段々とマヒルの息遣いが荒くなっていく。 「はぁ…はぁ…はぁ…んぁ。」 一旦口から出して、裏側を舐めながらソレを握っている手は上下に動かし、もう片方の手は、さっきまでダランとしていた袋を転がす。 マヒルを見上げると目が合った。 先端をもう一度口に入れ、先端から出ている粘液を舌先を使ってすくった。 「あ…まさか…お前にやられるとか…。」 マヒルの声が漏れる。 私の頭を持って、ゆっくりと腰を動かし始めた。 私もそれに合わせて手と舌を上下させる。 「はぁ…はぁ…はぁ…いくぞ。」 私は更に吸い付き、動きを速めた。 マヒルの袋がキュッと締まり… 「あぁ!」 マヒルが唸ったと同時に、喉にマヒルの愛液が勢いよく当たる。 「ルイ?」 「ん?」 「出せよ」 「ん?飲んじゃったよ?」 「は?マジかよ?」 「スッキリした?明日も良いよ。」 「ばーか。そんなにされたら、本当に骨抜きになるわ(笑)」 「でも、次からはしたくなったら、私がしてあげる。」 「ばーか。次にしたくなったらお前の体だ。」 そう言って、マヒルは浴室から出て行き、そのまま彼らの元へ再び行ってしまった。 翌朝、目を覚ますと、いつものように隣でマヒルは寝ていた。 「マヒル?」 「あ?」 「おはよ!」 「もう少し寝かせて…。」 「何時にチェックアウトなの?」 「ん?何時でも大丈夫…。」 「そうなの?」 「ん…。ルイ?」 「ん?なに?」 「部屋から出るなよ…。」 「うん。わかってる。」 「昼から買い物に出るから、それまで寝かせて…。」 「わかった。」 私はシャワーを浴び、出かける準備を終わらせて、のんびりマヒルの隣で本を読んでいた。 「うううああーーー!!!!」 「何?マヒル!マヒル!」 「はぁはぁはぁ…。」 「大丈夫?」 「ごめん。たまにこうなる。シャワー浴びてくる。」 シャワーを浴びて出てきたマヒルは、いつも通りのマヒルだった。 聞いてはいけない気がして、さっきのことには触れなかった。 「買い物行こうか?」 「うん。」 ホテルを出て、二人で原宿・表参道を歩き、携帯を買って、クレープを食べて、初めてマヒルと昼間の街を歩いた。 背が高くて色気のあるマヒルは、やっぱり目立つ。 すれ違う女性がマヒルを見た後に、私を見てヒソヒソと話す。 それに気づいたマヒルは、そっと私の手を握ってくれた。 「ルイ?」 「ん?」 「靴紐が、ほどけてるぞ。」 「あ、ほんとだ。」 マヒルは、直ぐにしゃがんで靴紐を結んでくれた。 こういうところ本当に優しい。 「はい。これでよし!」 「ありがと。」 マヒルが立ち上がると同時に、数人の男の人達に囲まれた。 「マヒルさん?」 「だったら何?」 「顔貸してくんない?」 「見ての通りデート中。また今度にしてくれねーか?」 「それはできない。女に傷がつくよ?」 私の腰にはナイフが当てられていた。 私はマヒルの腕を握りしめた。 私達は車に乗せられ、倉庫街のような所へ連れて行かれた。 車から降ろされ、私とマヒルは離された。 「マヒル!」 「大丈夫だ。待ってろ。」 そう言い残してマヒルと男達は消えた。 しばらくすると、私と一緒にいる男が、私に話しかけてきた。 「良いもん見せてやる。本当のアイツのこと知りたくないか?」 言っている意味がわからなかった。 私はマヒルと男達が向かった方向へ連れて行かれた。 そこに居たのは、私が知らないマヒルだった。 血生臭い匂いがした。 手は血に染まり、シャツには返り血、何人もの男達がマヒルの周りに転がっている。 マヒルと目が合った。 ゾクっと背筋に氷を入れられたような感覚になった。 優しさの欠片も感じない目。 まるで光を失ったサイボーグのような眼差しに私は息を飲んだ。 「あれが本当のマヒル。」 「何が言いたいの?目的は何?」 「あんたが知ってるマヒルは偽物ってこと。」 マヒルは、表情一つ変えずに、真っ直ぐこちらに向かって歩いてきた。 突然!横から誰かが走ってきて、マヒルにぶつかった。 ドス!という音と同時に、私の側にいる男が呟いた。 「くそ!やらかした!」 そして、大きな声で叫んだ。 「おい!行くぞ!」 私とマヒルを残して、男達は居なくなった。 私は、恐る恐るマヒルに近寄った。 マヒルのシャツが一気に血に染まり始めた。 「マヒル?マヒル?ねぇ…返事して。」 みるみると顔色が変わっていくマヒル。 私は急いでヒデさんに電話した。 「ヒデさん?マヒルが…早く来て。」 ヒデさんが直ぐに来てくれて、マヒルを病院に運んだ…といっても繁華街の中にある診療所のようなところ…。 「先生。若を…若を助けてください。先生。」 ヒデさんが泣きそうな声で、何度も先生に言い続けた。 「輸血が必要だ。マヒルが今まで何かの時に使えるように取っておいた血も全部使ったが…足りない。」 「でも先生。若の血液は、直ぐには…。」 「ヒデさん。どういう事?」 私は、ヒデさんと先生との話の内容が見えず、ヒデさんに説明を求めた。 「若の血液型は、A型のRh-型っていって珍しい血液型なんです。私達の周りにもA型は居ますが皆Rh+型なんです。Rh-にRh+を輸血すれば拒否反応を起こしてRh-の人はショック死します。だから、若は自分に何かあった時用に、自分の血液を少しずつ保存してたんです。それも足りないとなると…もう、なす術が…。」 「あの…。私、A型のRh-です。」 そこに居た全員が私を見た。 「ルイさん本当ですか?」 ヒデさんは、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で私に聞いてきた。 「はい。私も両親から珍しい血液型なので、事故や怪我には気をつけるように言われてきましたから。」 「調べてる時間はない。このお嬢さんが言っていることが間違っていればマヒルは死ぬ。それでもやってみるか?」 「先生。そうなった場合…」 また、ヒデさんは眉毛を下げて不安顔になった。 「あんたも死ぬかもしれないよ?」 先生は、私を見つめて聞いてきた。 「覚悟はできています。マヒルを必要としている人達が沢山いるんです。マヒルを助けて下さい。」 「わかった。輸血の準備を始める。」 私はマヒルの隣のベッドに横になった。 そして、輸血の準備をするため麻酔で眠らされた。 眠っている間、夢を見た。 木陰で、私の膝の上で眠るマヒルの髪を撫でながら、穏やかな日差しと風に揺れる大木の枝を眺めていた。 光が眩しい。 それでも私は、ゆっくりと瞼を上げた。 「ルイさん大丈夫ですか?」 私はうつろながら、ヒデさんの声に反応した。 「マヒルは?」 「隣で寝ています。まだ意識は無いですが…。手術は成功しました。ルイさんのおかげで血も足りました。本当にありがとうございました。」 ヒデさんの声が涙声に変わった。 「よかった。あ!マヒルの仕事は?こんな状態じゃできないよね?大事な仕事だって言ってたのに…。」 「大丈夫です。元々オヤジがやる予定だったのを若がやるって言って、動いていた仕事なんで、オヤジがやってくれます。」 「ヒデさん?オヤジってマヒルのお父さんのこと?」 「血は繋がっていません。若は養子なんです。若は五歳の時に、まるで捨て猫のように実の両親から繁華街に置き去りにされたんです。首には、拾って下さいと書いた紙を下げていたそうです。たまたま通りかかったオヤジと姐さんが、若を連れて帰り、色んな手続きをして、若を養子にしたんです。マヒルって名前もオヤジと姐さんが付けました。」 「そうだったんだ…。」 「だから、ルイさんを見た時に、自分と重なったんじゃないでしょうか。ルイさん。あの…その…若が刺された時、あそこで若の顔を見ましたか?」 「うん。見た。まるで別人だった。でも、不思議と怖いとは思わなかった。むしろ切なさを感じた。上手く言えないけど、目の奥が寂しそうで、もう大丈夫って抱きしめてあげたかった。」 「ルイさんは今までの人と違います。若を変えてくれる人なのかもしれないです。若は幼い頃から自分の立場を凄く理解して、感情を抑えながら生きて来られました。だから時々、自分の意思とは違う人間になります。」 「多重人格者ってこと?」 「おそらく。ルイさんと居る時の若が本当の若で、それ以外の若は別人格です。ルイさんと会うまでは、別人格の時間が長くて若自身苦しんでいました。若には穏やかに過ごす時間が無かったので…。」 「ヒデ。ルイが困るようなこと言うな。」 「若!!」 「声がデカイ。ルイ?助けてくれてありがとな。それから、俺の事が嫌になったら、いつでも俺のこと捨てて良いからな。」 「うん。そうする(笑)」 「ルイさん。そんな…。」 ヒデさんが情けない声で言った。 「うそうそ(笑)。ヒデさんちょっとどいてくれる?それで、マヒルと私のベッドを近づけて欲しいの。マヒル?」 「ん?どうした?」 「手ぇー繋いで。」 「仕方ねーな…(笑)」 マヒルの大きくて、あったかい手。 私は、この手を絶対に離さないと決めた。 程なくして、私はマヒルより先に退院した。 と、いっても、マヒルの側に居たかったので、ずっと診療所にいた。 マヒルと私を拉致した男達の事もわかった。 マヒルに次の仕事をさせないために、マヒルから私を奪い動揺させるつもりが、早まった若い子がマヒルを刺した。 「マヒル…。」 <あ…。> マヒルの両親だと直ぐにわかった。 「あなたが、ルイさん?」 「はい。」 「マヒルを助けてくれてありがとうございます。」 「いえいえ。そんな…。」 「その…。これからもマヒルの事をお願いできますか?こんなに穏やかな顔をしたマヒルを見るのは初めてで…。」 「母さん。ルイが困るから。」 「大丈夫です。マヒルから嫌だと言われても一緒に居ますから(笑)」 「その言葉が聞けて良かった。安心しました。マヒルがルイさんに迷惑かけるようなことがあれば、いつでも言ってね。私からしっかりお説教するから(笑)」 「はい(笑)」 マヒルの両親は安心した様子で帰って行った。 もっと怖いイメージだと思っていたけど、ご両親とも凄く優しい人だったので、私もホッとした。 「私に最強の味方ができた。」 「なんだよ?それ?」 「私を裏切ったら、お母さんに説教してもらうからね。」 「裏切ったらって何だよ?」 「え?色々?マヒルはモテるから。」 「ルイ?俺を笑わせるな。傷口が開く(笑)」 「え?嘘?大丈夫?」 「ヤバイ。」 「え?え?え?」 「ククククク(笑)いて〜(笑)」 「マヒル、笑わないで。先生、笑いを止める薬…。」 マヒルの傷口が開いてはいけないと思い、アタフタしていたらマヒルから腕を引っ張られ、前かがみなった瞬間キスされた。 「これが一番の薬。」 そう言って、マヒルは広角を上げた。 それからは、薬と言っては、一日のうちに何度もキスをした。 そのお陰か?マヒルの傷の回復も早く、一カ月程で退院できた。 退院してもゆっくりせずに、相変わらずマヒルは仕事をこなしている。 でも以前よりも穏やかな時間が増え、仕事の時の人格とも上手に付き合えるようになってるようだ。 その証拠に寝てる時のうなり声が無くなった。 寝てる間にもう一人の人格と喧嘩をしなくなったようだ。 「ルイ?」 「ん?なに?」 「身体の傷キレイになったな。」 「うん。先生についでに治してもらったの。」 「そか。んじゃ、俺のもんになるか?」 「……………うん。」 マヒルは私を抱き上げ、ベッドまで運んだ。 ベッドが少し沈み、マヒルが私の上に乗った。 ちゅ…ちゅる… マヒルの舌が口の奥まで入り、私の舌を弄る。 私もマヒルの舌に自分の舌を絡ませた。 何度も顔の向きを変え、激しさを増していくキス。 マヒルの手が私の胸を揉みしだく。 やっとマヒルと一つになれることが嬉しくて、全身でマヒルを感じた。 ちゅる…ちゅ… 「あ…ん…。」 裸にされ、いつも見られてるはずなのに、恥ずかしくて…。 「あんまり見ないで。」 「あ?俺の体をどんだけ見ようと良いだろ?」 「そうだけど、恥ずかしいよ…。」 「直ぐに恥ずかしいとか思っていられないようにしてやるよ。」 そう言って、首筋に舌を這わせてきた。 「んん…あ…んふ…。」 首筋から徐々に下がっていく唇。 両手で胸を寄せ谷間に舌を這わせ、指で両胸の先端を弄る。 ピクンッ 「あん…。」 私は枕の端を握りしめ、マヒルから与えられる快感に悶えた。 「ルイ。感じすぎ(笑)」 「だって…。」 「気持ち良い?」 「うん…。」 「ココは?」 「あ…だめ…。」 マヒルの指が秘部の入口に触れる。 「ヌルヌル。こんなに濡らして、やらしいヤツだな。」 「あん!」 マヒルの指が入ってきて、膣壁をクチュクチュと指の腹で擦る。 気持ち良くて腰が浮く。 と同時に、アソコに柔らかな感触が。 「あ…や…ダメ…。」 腰をくねくねと動かし、逃げようとしてもマヒルの舌はクリトリスを捕らえて離さない。 結局私は、指で膣内を弄られ、舌でクリトリスを責められて、何度も昇天した。 「マヒル…。」 「んあ?どうした?」 「挿れて…。」 「さっきの恥ずかしいは何処に行った?(笑)」 「や…言わないで…。」 イジワルな事を言いながら、マヒルは挿入してきた。 膣壁を押し広げながら入り難そうに…。 「痛くないか?」 「うん。大丈夫。」 全部が入り切ると、少し休憩して、ゆっくりと腰を動かし始めた。 ヒダとマヒルの肉棒が擦れる感触が気持ち良い。 「はぁ…あん…気持ち…良い…。」 段々とマヒルのペースで動き始め、奥に当たる度に子宮を突き上げられるような感じが痛気持ちよくて、愛液が溢れ、ビチャビチャと音を立てながらマヒルの肉棒が私を昇天に導く。 「ああ…ダメ…イク…。」 マヒルの腕を握り締め昇り詰めた。 挿入したまま横を向くように促され、片足を上げ、もう一方の足をマヒルの股の間に入れると、その状態のままピストン。 正常位とは違う位置に肉棒が当たり、正常位とは違う気持ち良さが襲ってきた。 「ああ…あん…あん…ダメダメ…イっちゃう…。」 私は、マヒルの肉棒の先が膣内の気持ち良い場所に何度もヒットするように自ら腰を振り、快感の波に飲まれ、果てた。 「次はバック。」 イったばかりの私を挿入したまま反転させ、バックの体勢へ。 腰を上げると手でガッチリをホールドされ、前後に揺さぶられた。 マヒルの肉棒の先端が奥を突いてきて、裏筋の部分がヒダを絡めながら出て行く。 私の愛液が搔き出され、太ももを伝って流れて行っているのがわかった。 「マヒル…もう…ダメ…。」 一定のリズムで中を刺激され、快感の波が私に襲いかかる。全身に力が入り、イクと同時にマヒルの肉棒を押し出してしまった。 ボタボタボタボタ… 「ごめん…。」 肉棒が抜け、私の中から愛液が零れ落ちた。 「気にするな…。」 そう言って再び挿入。 「俺もそろそろイクかな…。」 「うん…。」 私の腰をホールドしている腕の動きが、マヒルの腰の動きに合わせて加速した。 パンパンパンパン… 「あ…ん…あん…あんあんあん…。」 部屋中にお互いの皮膚がぶつかる音と私の喘ぎ声、ベッドの軋む音が響く。 愛液が潤滑油のようにヌルヌルと膣壁と肉棒との絡みを滑らかにし、気持ち良い場所が擦れ続けて気が狂いそうになった。 「気持ち良い。ダメ…イク…。」 「んあ!」 二人して同時に果てた。 私の中でマヒルの肉棒がドクンドクンと脈打っているのがわかる。 「ジッとしてろよ。」 「うん…。」 そっとティッシュを私の秘部の入り口に当ててくれて、私の中から出てくるマヒルの愛液を上手くキャッチした。 私は疲労感に襲われ、ベッドに突っ伏した。 「ルイ?」 「ん?」 「大丈夫か?」 「大丈夫じゃない。気持ち良すぎだよ。」 「俺も気持ち良かった。」 「ほんと?」 「うん。ほんと。」 「良かった〜」 「ルイ?」 「ん?」 「愛してる。大事にするからな。」 そう言って、突っ伏してる私の背中にキスをしてくれた。 <マヒルとなら幸せになれる…。> 「うん。私も愛してる。」 ガチャッ 「若!あ…。」 「何も言うな。空気を読め!」 「あはははは(笑)」 相変わらずのヒデさんのタイミングが面白くて、私はお腹を抱えて大笑いした。 あの日の捨て猫は、真昼の太陽の温もりのなか、とびきりの愛情を受け、幸せになってるよ。 おしまい。 他の作品は以下のサイトに掲載しています^ ^ ※プロフから飛べます。 読みに来てください。 ↓↓↓↓↓ Twitterアカウント https://mobile.twitter.com/iwata_ruka
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