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ここに来て、もうどれくらい経っただろう。
今日も月が見える。何時見ても美しい大きな月。でも、私が今まで見てきた月とは違う。
ここは、地球じゃない。
けれどこの星でも地球と同じように人は生き、陽は昇り、夜が来る。
「何か珍しいものでも見つけたかい?」
穏やかな青年の声が届く。
この星の人だ。
私達とは少し姿が違うが、不思議と安心出来る存在。
「うん、月がキレイだなって。」
私は天を指した。
「ツキ?」
青年は不思議そうに空を見上げた。
「あの『安定装置』のことかい?」
「『安定装置』?」
私は首を傾げた。あれは月ではないのか?
「あぁ、この星のバランスを保つための装置だよ。一部に偏ってしまった余分なエネルギーを分散させて別のものを補ったりしてバランスをとってるんだ。この星の自然や、僕達『人』のね。君がいた地球にもあったはずだよ。僕達が見つけた時には既に壊れていて随分狂っていたようだけど…。」
それは…私達地球の人間がそうさせたのだろうか。
そしてバランスを崩し、人間も自然もおかしくなって、私達の地球はーーー。
「君達は知らなかったようだね。あの『安定装置』の事。もっと早く知っていたら修復出来たかもしれないのに…。」
「どうかな…知っていても、変わらなかったかもしれない。私達地球の人間の未来は…。」
私の瞳に映る月のようなものが少し滲んだ。
広い夜空に静かな風か吹く。
「ーーーそうか…君達はあれを『ツキ』と呼んでいたんだね。」
一緒に懐かしむような声で青年は言った。
「いい呼び名だね。この星では『ツキ』は『幸運』って意味もあるから僕達もそう呼ぼうかな。『月の幸運』でこの星と僕達は存在していられるんだから。」
青年は幸せそうな笑顔で月と私を見た。
その笑顔で私の瞳の中の空も明るくなってゆく。
この星は地球じゃない。
同じにはならない。
でも、どうなるかはわからない。
ただこの景色が、この世界が、どんなものによっても壊されないことを願った。
私達の地球とは違う、
この、月明かりの下でーーー。
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