話すしかなかった

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話すしかなかった

 さてどうしたものか。ここでごまかしても、きっと後でまたどこかでボロを出す可能性が高い。とは言えども、正直に明かしたところで信じてもらえる可能性も低い。俺は覚悟を決める。 「ごめん、彩。こんな姿をしてるけど俺がお前の言ってる知り合いだよ」  元の口調で彩に話しかける。当然、彩は驚くし、俺が何を言ってるのか分からないだろう。でも、俺はそんな事にお構いなしに、俺の身の上に起きた事を全部彩に話した。  驚かない方がおかしい。言ってる自分も訳が分からない。とは言えども、これは全て事実であるので仕方なかった。 「そっか。それで私を見た時に名前を言ったのね」  今日、服屋の前で転ぶところを助けてもらった時に、不意に出た彩の名前。どうやらそこを起点に彩も信じられないながら納得した感じだ。 「あの(かず)君が、こんな可愛い少女になるなんて正直驚きだわ」  彩は俺の頭をなでながらそんな事を言うが、ぶっちゃけ俺が一番、この姿に驚いている。 「夢の中で会った爺さんが『罰』と言ってたからな。女を(もてあそ)んだから女になったんだろう」  ため息をつきながら俺は言うが、不思議と夢の中で会った爺さんに対する怒りなどの感情は出てこなかった。だが、男の時の不可解な女癖が気になって仕方がない。第一、彩を振った事からして謎だったんだから。 「本当にごめんな、彩。お前を傷つけたのは事実だし、一緒に住むからには償いも兼ねてできる限りの事はさせてもらうよ」  俺は申し訳ない気持ちでいっぱいだったので、彩にそう言って頭を下げた。でも、彩は「済んだ事だからいいよ。部屋の事してくれるのはありがたいけど」と言って笑っていた。  ……笑って済ませられるわけがない。俺が振った後、その場にしゃがみこんで大泣きしていたのは覚えている。早々に立ち去ったが、後ろからいつまでも泣き声が聞こえていたんだから耳についてしまっている。少女姿になった今の俺はその時の事を鮮明に思い出せる。忘れていたなんて情けない限りだ。 「殴りたくなったらいつでも殴っていいからな」 「こんな可愛い子を殴るなんてできないって」  俺と彩は冗談交じりにそんな事を言い合う。 「私もお風呂に入ってくるから、そのあとご飯にしましょ」  彩はそう言ってお風呂へと向かって行った。
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