服を買う

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服を買う

 マンションから出て、徒歩10分ほどの服屋へと向かう。お揃いのジャケットを着て歩く姿はまるで姉妹だ。ジャケットがお揃いなのはあくまでもたまたまだ。まさか同じ物を持っているとは思わなかったよ。  俺たちは仲のいい姉妹を演出するために手をつないで歩いている。俺は内心ドキドキしている。付き合っていた頃にもこんな風に手をつないだ事はない。初めての体験だった。俺は彩の方を見る。彩もなんだか照れくさそうに俺を見てくる。どうやら彩も同じようだった。俺たちはお互いに恥ずかしそうにしながら服屋へ向かう。  すれ違う人の視線が少し気にはなったものの、無事に服屋に到着。今日の目的は俺の服を買う事。彩の服は十分あるし、特に傷んではいないので追加で買う必要はないようだ。 「さて、可愛いかずみちゃんに合う服を選ばないとね」  彩がなんだか張り切っている。俺としては着られれば何でもいいんだが、彩は俺におしゃれをさせようとすごく意気込んでいる。少し怖いぞ。あいにくだが、俺は着せ替え人形になる気はないからな。  彩は俺から体のサイズを聞き出そうとする。普通の女なら同性であっても口には出さないだろうが、俺はそもそも男だし、彩には世話になる。間違ったサイズを買われてお金を無駄にはしたくないので、おととい自分で測ったサイズを書いた紙を彩に手渡す。彩はそれを見ると、ますます鼻息を荒くしていた。怖いって。 「彩お姉ちゃん、怖い」  俺は聞こえるようにつぶやく。しかも、おびえるような表情で。そんな俺の表情を見た彩が「ごめん」と謝る。俺の渾身の演技が通じたようだ。  落ち着いた彩と一緒に服を選び始める。彩が俺の希望を聞いてくるから、「そんなに派手じゃない物」とだけ注文を付けておいた。  俺たちは試着をしながら服を選んでいく。選ぶ際にはちゃんと俺に確認を取ってくれている。服と下着だけでいいと思っていたんだが、彩はさらに靴と髪飾りも買うように勧めてくる。 「ブーツやスニーカーを1足ずつだけでしょ? 夏に向けてミュールやサンダルの1足も持っておくべきね。あと、かずみちゃんの髪はそこそこ長いから、髪をまとめたり留めたりするのもいいわ」  ふむ、確かにその通りかもしれない。実際、今も首の後ろの髪に覆われた部分が少し汗ばんでいる。髪を上げて風通しを良くするのはいいかも知れない。俺は彩の意見を飲む事にした。
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