お出かけ

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お出かけ

 悩んでる間に、時間はすっかりお昼時だった。俺はお昼を簡単に済ませると買い物に出かける事にした。  元の自分の服を着て、足元はサンダル。財布はベルト代わりのウェストポーチに入れてある。どう見ても少女姿には違和感のある状態だ。でも、服はこれしかないので仕方がない。  住んでいるマンションを出て、街へと出かける。向かうのは服屋とスーパーで、マンションからは近い。いつもならどちらも徒歩10分ほどだ。 「さすがにこれだけ背が縮めばいつも通りとはいかないな」  最初に向かった先である服屋に着いたのは、いつもの倍の20分後だった。視点が低くなった事で見える景色が変わってしまい、危うく迷いかけた事も影響した。しかも息切れはするし、大きすぎるサンダルは何度も脱げたりして大変だった。元が27cmで、今は22.5cmだもんな。ちゃんと足に合った靴を買わないといけないな。  服屋は目の前、道路を挟んだ向かい側だ。今は信号待ちをしている。  不格好な姿をした俺は、周りから奇異の目で見られているのを感じる。明らかにおかしな格好だから仕方ないのだが、こうも見られるとなんだかイライラしてくる。しかし、ちらほらと可愛いという単語も聞こえてきたので、なんとか我慢できる。自分で言うのもなんだけど、外見はそこそこの美少女だ。言われて当然だろう。だが、誰一人として、俺に声をかけてくる事はなかった。  信号を渡り、服屋に到着する。無事にたどり着けて良かった。お店はよくある衣料品の量販店だ。先行き不透明なので安く済ませるためだ。お金はいくらあっても足りないからな。  だが、いざ服屋に入ろうとした時だった。サンダルが脱げ、転びそうになる。「あっ」と思った瞬間だった。俺は誰かにぶつかった。 「大丈夫?」  俺の頭の上から声が聞こえる。なんだか聞き覚えのある声に、俺は顔を上げる。……見知った顔だった。 「(あや)?」 「え?」  俺がつい名前を口走った事に、彩と呼ばれた女性が驚いている。そりゃそうだろう。会った事もない少女が自分の名前を呼ぶのだから。 「ごめんなさい。お……私の知り合いに似ていたので」  俺はとっさに言い訳をする。彩が明らかに疑いの目で見てくるので、 「た、助けてくれてありがとうございます。私、急ぐので失礼します」 頭を下げてお礼を言うと、サンダルを履き直してお店へと急いだ。
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