荷物を持ってくる

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荷物を持ってくる

 俺は自分の部屋に戻ってきた。慣れないブーツで走ってきたが、転んだり挫いたり折れたりする事はなく、無事に到着した。部屋に入ると部屋の隅にあるさっき買ったばかりの服を確認する。入っていた男物の服はもちろんだけど置いていく。  俺はすかさず部屋を見回し、持っていく物を選定する。パソコンは必須。歯ブラシもあった方がいい。俺が和美だとバレては困るので、パソコンの壁紙は変えておくし、CDも持っていかない。あれはいいこれはダメと選ぶ事一時間、どうにかまとまった。  両手いっぱいの荷物を持つと、彩の住むマンションへと歩き出した。不慣れな格好なのに、重たい物を持って走れるわけがない。壊れ物もあるからこけるわけにもいかないので、慎重になるのは仕方のない事だよ。  それにしても不思議なものだ。今朝こんな姿になったばかりなのに、体の事も服装の事もすでに違和感がなくなってしまっている。そう、まるではじめから女であったかのような感じだ。それが証拠にトイレの仕方も全く迷わなかった。ちなみに仕草や言葉遣いは、中学の時の彩やクラスメイトの事を思い出しながら即席で考えた。受け答えしていた彩の様子からも問題ないようだった。  さて、荷物も持って彩の住むマンションまで戻ってきたのはいいが、どうやって入ろう。入口はオートロック、鍵はない。入口横のインターホンで呼べばいいのだろうか。  俺が入口の前で右往左往していると、走ってくる音が聞こえてくる。音のする方を見てみると、彩が走ってくるのが見えた。どうも迎えに来てくれたようだ。そして、入口の自動ドアを開けてくれた。 「無事に戻ってきたのね。鍵を持ってなかったから心配したのよ」 「ごめんなさい」  彩に心配をかけたようなので、俺は素直に謝る。彩はほっとした表情を浮かべて俺を迎え入れてくれた。俺の持っていた荷物のいくつかは彩が持ってくれた。こういうところは昔のままだな。  部屋に戻ると、1LKの部屋の一角を空けてくれていたらしく、そこに持ってきた荷物を置いた。その後、今日は疲れただろうからとお風呂に入るように言われたので、おとなしくそれに従う事にした。彩はホントに気が利くやつだ。
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