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はじまり
「な、なんだこりゃーーーっ!」
マンションの一室に叫び声がこだまする。
「う、嘘だろ? これが俺なのか?」
鏡に映る姿は背の小さい見た目中学生くらいの少女だ。自分の事を『俺』と言ったのはその少女だった。
――時間は少しさかのぼる。
「別れよう。お前にはもう飽きたんだ」
男の無慈悲な声が聞こえる。言葉をかけられた女性は、信じられないと取り乱し男をつかむ。男は自分をつかむ手を強引に振りほどく。そして、後ろを振り返る事もなく、その場を歩き去った。
男の名前は『瀬田和美』、25歳。サラリーマンで独身。長身で顔立ちの良い、いわゆるイケメン。仕事もきちんと真面目にこなし、人当たりも良い。
そんな彼もただ一点、大きな問題があった。女癖が悪いのだ。付き合った女の数は星の数ほど、見かけるたびに隣にいる女が違うと言われるほどだ。
今日も彼に泣かされる女が一人、ろくでなしの人でなしだ。
新たに女性を泣かせた日の夜の事、和美は不思議な体験をする。奇妙な夢を見たのだ。辺り一面真っ白な空間、その中に和美は立っていた。辺りを見回すが何もない。歩いてみるが景色は変わらない。……和美は言い知れぬ気持ち悪さを感じた。
しばらく歩いていると、目の間に白い装束を着た白髪の爺さんが立っていた。景色が真っ白なので、ほとんどわからなかった。
「こんなところに爺さんがいるとは、驚きだな」
和美の問いかけに爺さんは、
「お前さんを待っていたよ」
と答える。和美は首を傾げる。知らない爺さんに「待っていた」と言われてもピンとこないのは当たり前だ。
「お前さんはずいぶんと女性を弄んできたようじゃな。よって罰を与えようと思っての」
唐突にとんでもない事を言い出す。人が考えてるところに、意味不明な事を重ねられて和美は混乱の極みだった。
「はぁ? 女で遊んで何が悪い。向こうから言い寄ってくるんだ。それくらいいいだろう?」
和美が言うと、爺さんはやれやれと首を横に振る。
「反省はないようじゃな。よし、次にお前さんが目を覚ました時に面白い事になるようにしておくぞ」
爺さんが手をかざすと、辺りが一層白く光る。爺さんの姿はおろか、和美自身の姿も徐々に白い光に包まれて見えなくなっていく。
そして、視界のすべてが白くなった時、眠るように意識も途絶えた。
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