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「あ、ぁっ、紅牙……っ」  ゆっくりとそれが出し入れされる。泉の内部はその熱棒を離すまいと収縮し、絡みついては淫猥な音を響かせた。 「若桜さま。若桜っ……」 「紅牙、紅牙」  互いの名を壊れたように呼び合いながら。月明りが煌々と射す褥の上で、激しく絡まり合った。 唇と唇で。舌と舌で。胸と胸で。そして繋がり合ったそこで。全てで光太郎を感じる。ふたりの境界線がぐずぐずに溶け合い、ひとつの体になってしまったような感覚。体中が熱くて痺れて、早く達してしまいたくて苦しいのに、いつまでも終わってほしくないとも思った。ずっと体内で紅牙を感じていたい。ずっとこの禍福に酔い痴れていたい。  だがどちらも限界が近い。ふたりの腹で擦られた泉のそれは己の臍につくほどに高く反り返り、先端から溢れた蜜が糸を引いている。光太郎も、突き上げる動きが次第に速くなっていた。 「若桜さま、もう……」 「ああ、おまえのもので、俺を満たしてくれ……」  言うが早いか、両脚を高く抱え上げられて激しく突き上げられる。 「あッああっ、んっ、あッ、ほたる、紅牙っ」  泉の両膝を己の肩にかけ、自身の両手で泉の上半身を抱え込む。全てをその内に抱くような恰好で揺さぶられ、泉の視界も内部も全てが光太郎でいっぱいになる。負けじとその背を強く抱いて、飽きずに唇にむしゃぶりついた。 「ん、んっ、んう……――ッ!」  泉の体の一番深いところで、光太郎の熱が弾ける。幾星霜の時を超えて注がれたその愛おしい粘液を感じた瞬間、泉も欲を吐き出していた。  けっして実を結ぶことのない粘液は、しかしじわじわと泉の体内に染み入って、その体の一部となる。絡み合った舌も、内部に収まった熱も、しばらくそのままにしてどちらも動かなかった。いつまでもこの多幸に包まれていたかった。生命の終わりという止めようのない終焉が、二人を分かつまで。 「愛……しています。若桜さま」  大きな滴をこぼしながら、直接その口に吹き込むかのように光太郎が言う。何百年もずっとその言葉を待っていた。待ち焦がれていた。感激に震える唇で、泉も言葉を紡ぐ。 「俺もだ。紅牙。愛している。この世の誰よりも」  かつて若桜として生きた十九年。その中で言えずに固く仕舞い込んでいたその言葉を口にする。 その瞬間、パンッ、と泉の中で何かが弾ける。午睡から覚めるかのような、冷たい水から顔を上げたかのような、清涼で柔らかい爆発だった。 「っ、何……あっ」  未だ光太郎の欲望を受け入れたままの己の体を見下ろし、泉は感嘆の声をあげた。つられて光太郎もそこに視線を落とし、目を見開く。  痣が薄くなっていた。  ふたりの歪んだ情愛が生み出した呪い。十九までしか生きられなかった若桜の運命を輪廻に縛り付けていた、いびつな束縛の証。その痣が消えゆこうとしていた。 「あ、ああ……」  恐ろしかった。憎かった。だけれど今は、消えゆくその黒がどうしてだか名残惜しい。震えて涙を流しながら見届けている泉を、光太郎の広い胸が優しく抱いた。  痣がもう染みといえるほどに薄くなって、ようやく光太郎は己のそれを泉の体から引き抜いた。ごぽりと音をたてて溢れる白濁に、一度収まったはずの熱がまた頭をもたげる。
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