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「ただでさえ気まぐれに仕事をするところがあるから、スケジュールはぐちゃぐちゃなんですが、更に悪化しているんです。僕もさすがにどうしようかと途方に暮れましてね」
真崎が参ったといったように苦笑した。
「はっきり言って、桐島さんには惚れっぽいところがあります。僕が知っているだけでも何回失恋していることか。でも、惚れっぽいだけあって、立ち直りも早いんです。ただ今回に限って……いつもと違うんですよね」
真崎の表情がフッと緩む。それは、呆れているようにも、楽しそうにも見えた。
「一宮さんのことも、断固として拒否しています。僕は、あの人がここまで女性を拒否するのを初めて見ました。別に、一宮さんは桐島さんの好みに合わないというわけではないと思います。むしろ好みかもしれない。ただ、今の桐島さんには、彼女を受け入れることはできないんですよ」
「……」
「ここまで言えば、賢明な氷上さんならわかっていただけますよね?」
胸がいっぱいになり、声が出ない。涙が零れないようにするだけで精一杯だった。
真崎は伝票を持って立ち上がり、最後に一言を添えた。
「自分の気持ちからは逃げられません。何年かかっても無理なんです。あと……本気になった桐島岳からは逃げられませんよ。そろそろ観念してください」
爽やかな笑顔で、恐ろしいことを言う。しかし、自分の気持ちからは逃げられないという言葉には、深く同意した。
理真はポケットの中の携帯を握り締める。
カフェを出た後、理真はこれまで押せなかった番号を呼び出し、決死の覚悟でボタンを押した。
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