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「まずは、謝らせてください」
「え?」
岳がきょとんとした顔をする。理真は岳の方に身体を向け、深く頭を下げた。
「あの日、桐島さんを突っぱねるような言い方をしてごめんなさい。……差し伸べてくれた手を、思い切り振り払って逃げました。……ごめんなさい」
「理真ちゃん」
「許してほしいとは言いません。でも、ただ謝りたかったんです」
唇を噛み締め、一呼吸置いていると、岳が俯いた理真の顔を上に向ける。触れるほど近いその距離に、一瞬腰が引ける。しかし、離れることはできなかった。岳が強く腕を引いている。
「ただ……謝るだけ?」
「えっと……」
「あのことは、別にもういい。連絡をしてきてくれて、今、僕のすぐ側に理真ちゃんがいる、それで全部チャラだ。そんなことより、僕は別の言葉が聞きたい」
真剣な目で、岳が顔を覗き込んでくる。いつの間にか腕を掴まれ、腰を引き寄せられ、吐息をも感じられるほど距離を詰められていた。眩暈がする。
「理真ちゃんが言えないなら、僕が言う。何度でも」
「……」
息を呑む。上手く呼吸できず、声もなく喘いだ。
「好きだ」
「……」
「理真ちゃんが好きだ」
「……」
「好きだよ……理真」
すぐ耳側で囁かれ、ビクリと身体が反応する。
岳は大きく息を吐き出し、堰を切ったように理真を強く抱きしめた。
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