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「もう……逃げないで。頼むから、僕を受け入れてほしい」
切羽詰ったような岳の囁きに、心臓を鷲掴みされたような気持ちになる。
痛くて、苦しくて。
自分の馬鹿さ加減がつくづく嫌になった。
ここまで想われて、どうして逃げようなどと思ったのか。
ここまで想われていたことを、どうして受け入れられなかったのか。
理真は恐る恐る腕を伸ばし、岳の背に手を回した。
「ごめんなさい……」
馬鹿でごめんなさい。鈍感でごめんなさい。
そんな気持ちを込めて、ぎゅっと抱きつく。すると、岳はクッと喉を鳴らして再び理真を覗き込んだ。
「僕が聞きたいのは、もっと別の言葉なんだけど」
こうやって促されないと言えないのか。情けないと自分に苦笑しながら、理真は岳と視線を合わせ、小さな声で囁いた。
「好きです」
その言葉が返ってくることがわかっていただろうに、岳は動きを止め、ひたすら理真を見つめている。そして、震える声で言った。
「もう一回、言ってほしい」
「え!?」
「夢かもしれないから!」
「ゆ、夢じゃないです」
人をこんなにも強く抱きしめておきながら、今更夢も何もない。
しかし、大真面目な岳にほだされ、理真は顔を俯けながら言った。二度目はとても顔など見られない。
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