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「ダメ。声、聞かせて」
耳元で囁かれ、そのまま耳朶を食まれる。柔く歯を立てられ、堪らず微かな声が漏れた。
「……ちょっと身体を起こすよ」
そっと抱きかかえられ、身を起こされる。理真の服は乱され、いくつかは床に落とされていた。薄い布地に覆われた理真を、岳は抱いたままソファから立ち上がる。
「ここじゃ、落ちないようにって気になって集中できない」
岳は悪戯っぽく笑い、腕の中の理真の額に軽く口付けを落とした。そして、そのまま歩き出す。
「あ……」
声を出そうにも、掠れたような息しか出ない。
重いから下ろしてほしい、そう言おうと思ったが、言ったところで下ろしてもらえそうにない。
岳の腕は力強く、大切なものを抱えるように理真を自分の身体に寄せていた。
ずっと岳の鼓動が耳に響いている。その音が心地よくて、離れたくないと思ってしまっている。声が出たところで、何も言えそうになかった。
暗い部屋の中、岳は迷いのない足取りで理真を大きなベッドに横たえる。覆いかぶさられ、スプリングがたわむ。このまま二人、深く深く沈んでしまえばいいと思った。
「理真」
名前を呼ばれる度、泣きたくなる。こんな感情も初めて知った。
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