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「そんなに簡単に解放してあげない」
「……っ」
何も考えられないなら、考えるまい。逃げられないなら、捕まるしかない。
初めて自分の本能を目の当たりにした気がする。本能に身を委ねることは、こんなにも恐ろしく、こんなにも心地よく、幸せな気分になれるものなのか。
「……理真、愛してる」
掠れた声で囁かれ、また涙が零れた。心だけでなく、身体中の細胞が喜んでいる、そんな風に思えた。
「……岳」
たぶん、それから幾度も繰り返し岳の名を呼んだ。理真の意識はほとんどなかったが、岳のこれ以上ない満足げな笑みが、目に焼きついている。
触れる度、燃えてしまいそうな熱に襲われる。それでも離れたくはなかった。手を伸ばすと、身体に触れていた手が理真の指に絡まる。強く握られ、ホッとする。そんな理真の顔を見る度に、岳は「可愛い」と言って微笑んだ。
そんなことを飽きるほど重ね、やがて少しずつ理真の意識は薄れていく。目を開けていたくても、瞼が重く、勝手に閉じようとする。
思い通りにならない身体をもどかしく感じながらも、理真はこれまでに感じたことのない幸福感に浸りつつ、ゆっくりとそれを手放していった。
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