氷姫

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理真(りま)さん、呼ばれてるみたいですよ?」  収集したデータをレポートにまとめるため、氷上理真(ひかみりま)はPCの前で黙々と作業していた。そこへ、ちょんちょんと肩をつついてきたのは、同じ部署の後輩、林田咲(はやしださき)だ。  咲の指差す方へ顔を向けると、ガラス窓の向こうに爽やかな笑顔を湛えた中年男性がいた。 「藤木課長!」 「中に入ってくればいいのに。でもまぁ、研究部門の中ってあんまり入りたくないんですかね?」 「違うわよ。埃とか細菌とか、自分が何かを持ち込んで研究を台無しにしたくないって配慮」 「そうなんですか?」 「そう。私も不思議に思って聞いたことがあるから」 「でも、科捜研じゃあるまいし、そこまで気を遣わなくても大丈夫なんですけどね」 「何がよくて何がダメなのかは、一般の人じゃなかなかわからないわよ。それに、藤木課長ってちょっとそそっかしいとこあるし、本人も何か割っちゃいそうで怖いんだって」  理真の働いている場所は、化粧品大手メーカー『KIRISHIMA』の開発部門を担う『KIRISHIMA』研究所。そこで、スキンケアの商品開発をしている。  研究室にこもって様々な実験や検査をし、データを集め、解析、新しい商品の開発や、既存のものをよりよく改良したりといった仕事が主だ。特殊な機材や道具があるので、一般職とは別に部屋が区切られている。 「何だろう? ちょっと行ってくる」 「はーい」  白衣をヒラヒラと翻しながら、理真は研究室の扉へ小走りで駆けた。
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