氷姫

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「藤木課長、どうされたんですか?」 「ごめんごめん。ちょっと氷上さんにお願いしたいことがあって」  温厚な笑みを浮かべながら、藤木は申し訳なさそうに顔の前で両手を合わせる。  彼、藤木雅彦(ふじきまさひこ)は、『KIRISHIMA』研究所の商品開発部商品企画課課長で、研究には直接携わってはいない。  しかし、新商品を企画する上で研究部門との連携は必要ということで、藤木は各部門の研究職員とコミュニケーションを密に取っている人物だった。  理真も入社当初から藤木には何かと世話になっている。ともすれば、自分の直属の上司よりも。  上司は自分の研究に没頭してしまうタイプで、部下の面倒を率先してみようとはしない。こちらから声をかければ応じるも、自分からというのはほとんどなかった。  コミュケーションがあまり得意ではない、理系研究職の人間にとってはありがちのことなので、理真をはじめ、他の人間もあまり気にしてはいない。  ただ、入社当初は慣れないことも多く、仕事もスムーズにいかなかったりする。そんな時に相談に乗ってもらえないのはキツかった。  そんな時、上司との橋渡しをしてくれたのが、藤木だったのだ。
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