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「理真ちゃん、名刺ちょうだい」
「わかりました。取ってきます」
「プライベートの番号とアドレス、メッセージIDもちゃんと書いてね!」
真崎をチラリと見遣ると、困ったような顔をしている。「適当でいいですよ」と小声で言っていた。
理真は仕方なく自分のデスクへ行き、名刺を取り出す。プライベートの情報を渡すことに躊躇いがあったが、それでは収まらないことはすでにわかっている。
理真は考えた末に、メッセージIDだけ名刺に書き込んだ。メッセージアプリでのやり取りなら、どうにでもなる。やり取りしたくないなら、既読スルーすればいいのだ。
「どうぞ」
理真は岳に名刺を差し出した。岳が嬉しそうに受け取り、早速とばかりに理真の名刺を凝視する。
「番号書いてない!」
「メッセージIDは書きました」
「えー、電話できないじゃん」
「電話には出られないことが多いので」
「じゃ、メッセージには返事してくれるってことだよね」
「……」
一本取られたような気がしないでもないが、理真は「まぁ」などとお茶を濁す。
真崎はもう岳にツッコむことはせず、理真と岳のやり取りを楽しんでいるようだった。その証拠に、今も肩が震えている。
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