秘め事

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 視察が終わった当日から、理真の携帯にはメッセージの着信を知らせる通知が届くようになった。返事をしないと、嫌がらせかと思うほど、山のようなメッセージが届く。  内容のほとんどは会わないかという誘いだ。仕事が終わった後に食事に行かないか、今度の休みにデートしよう。どこそこで新しい店ができたから、この食べ物が美味しいと評判だから、果てはSNS映えするからなどと、なにかと理由をつけて理真を誘う。それにいちいち答えなくてはいけないのが大変だ。   そして、断る理由もすでに尽きた。何度も既読スルーしているが、そうすると攻撃が更に酷くなる。これはもう、コンプライアンスに訴えたほうがいいのではないかという気がしてくる。真崎に相談してみようかとも思ったが、個人的なやり取りをどうにかしろといっても、さすがに無理があるだろう。 「はぁ……」 「どうしたんですか? 理真さん」  咲が心配そうな顔で覗き込んでくる。「寝不足ですか?」と聞かれ、理真は肩を落として頷いた。 「何か心配事ですか? 理真さん、寝つきいいって言ってたし、一回お泊りに行った時も、私を放ったまんまさっさと寝ちゃいましたよね?」  飲み会で珍しく終電を逃したことがあり、研究所から近い理真の部屋に咲を泊めたことがあった。  次の日が休みだったこともあり、咲は一晩中女子トークするつもり満々だったのだが、理真はいつもの習慣でさっさと寝てしまった。  その時のことを咲は何気に根に持っており、未だにこうして話題に出してくる。
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