氷姫

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「藤木課長のお願いなら、断れませんね」 「よかった。サクっと断られたらどうしようかと」 「でも、まだ内容をお伺いしてませんので、内容によっては……」 「わかってるよ。まぁここじゃなんだから、休憩エリアに行こう」  内容如何では断りたいと思えど、お願いされるのが藤木とあらば仕方がない。口ではあぁ言っていても、理真の中ではすでに受けるつもりでいた。  理真は、お願いというのができるだけ面倒でないことを祈りながら、藤木の後をついていく。  休憩エリアでコーヒーを奢ってもらい、藤木の話を聞く体勢に入る。  藤木は意を決したように話し始めた。 「あのさ、今度本社から視察が来ることになって」 「視察? 何のですか?」 「うちはこれまでF2層以上をターゲットにしていたけど、F1層にも広げようってことになっているだろう?」 「はい」  F1層やF2層というのは、広告業界におけるマーケティングで用いられる、ターゲットとなる顧客の年齢別区分の名称のことだ。  『KIRISHIMA』がメインターゲットとしていたのはF2層と呼ばれる区分で、これは35~49歳の女性を指す。『KIRISHIMA』は高級志向なので、これくらいの層でないと手が出ないということもあったのだ。  しかし、これからはF1層、これは20歳~34歳の女性を指すが、この層もターゲットとして商品を開発しようということになっていた。会社の方針に則り、理真たちもF1層向けの商品開発業務を進めていっている。
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