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「まぁ、視察に来る分はしょうがないですね。その日は我慢します。いつもより仕事に没頭すれば気になりません」
小さな溜息をつきながらそう言うと、藤木は困ったような顔でまた手を合わせた。
「ごめん、氷上さん! 君に案内役をやってもらいたいんだ」
「……は?」
理真の目が点になる。一瞬、何を言われたのかわからない。
「藤木課長……すみません、もう一度おっしゃっていただけますか?」
確かめるように言うと、藤木は娘にも近い理真に向かって深く、深く頭を下げた。
「桐島さんの視察、氷上さんに担当してもらいたい!」
「え……え……ええぇぇーーーー!!!」
思わず大声をあげてしまったせいで、理真と藤木は周りから大注目を浴びてしまう。
スキンケア部門の部屋まで聞こえたらしく、バタバタと足音がしたかと思うと、咲が駆けつけていた。
「ど、ど、ど、どうしたんですか!? 氷姫らしからぬデカイ声……」
周りと見ると、他の人間もなんだなんだと興味津々の目を向けてくる。
「今の、氷姫の声?」「あんな声出るんだ」などというこそこそ話まで聞こえてきた。
『氷姫』──これは、理真のニックネームのようなものだ。まったくもってありがたくない。面と向かってそう呼ぶ人間は少ないが、陰では当然のように呼ばれていることは理真も知っていた。
由来は単純、理真の苗字と、肌の白さからきている。しかし、これだけではない。
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