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「き……気にしてません」
顔を背けながら言うと、岳が小さく笑う声がした。そのままプイと横を向いていると、椅子が引かれる音がする。それでも無視をしていると、両手がふわりと温かくなった。
気付くと、岳が理真の両手に手を添えている。そして、床に膝をついて理真の顔を見上げていた。
「きっ、桐島さん、何を……」
「気にしてくれたんだ」
「いえ、気にしてませんって言いました!」
「顔には気にしてたって書いてあるし」
「気にしてませんっ!」
血が上ったのか、頭がぼんやりする。顔が熱い。理真は岳から離れようと、手を振りほどいて立ち上がる。
「……逃げないでって言ったよね?」
その一言で、動けなくなった。岳がゆっくりと立ち上がる。
「そんなの……」
「振り向かせるって言ったよね」
告白の後、連絡一つ寄越さなかったくせに。
そう思う時点で、岳の思惑に嵌っている。
「そんなこと言って、騙されません」
「どうして僕が理真ちゃんを騙す必要があるの?」
「そんなの、わからないけど! たっ、例えば……落とすことを、楽しんでいるとか」
すると、岳がハァと理真にも聞こえるように大きく溜息をつく。
「そんなに性格悪いと思われてる? まぁ……評判は散々だと思うけど、女の子を弄んだことなんてないんだけどな。浮気もしたことないし」
「……女好きって聞いてますけど」
ポソッと理真が呟くと、岳は声をあげて笑った。
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