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「理真ちゃん」
「えっ、あっ、はいっ!?」
挙動不審な理真に、岳が笑う。そして、理真の肩に額を押し付けるようにして、岳がもたれかかってきた。
「時々でいいから、こうやって僕に付き合って。本当は、いつもがいいけど。でも、振り向いてもらえるまでは我慢するから。……理真ちゃんに、会いたい」
理真の心臓が一際大きく跳ねる。ドクンという音がして、息が苦しくなる。
こんなことを言われ、こんな風に求められ、それでも拒否できるほどの理由が理真にはない。
もしも藤木が独身なら、すっぱりと断れたかもしれない。しかし、藤木には妻がいて、諦めるしかない存在で。その苦しい気持ちも岳は知っている。それでも、理真に会いたいと言ってくれるのだ。
「私……桐島さんの気持ちに応えられるかわかりません」
「うん」
「何度会っても、やっぱり無理だってなるかもしれません」
「それならそれで、仕方ない」
「でも会うことで、桐島さんが「あ、やっぱり勘違いだった」って思うかもしれないし」
「それはないかな」
クスッと笑い、岳は自信満々な顔をした。
「こういうの外さないんだよね。勘違いとか、ありえない」
クイと、岳の口角が上がる。不覚にもまた、心臓がドクンと跳ねた。
理真は顔を背けようとする。しかし、その視線は岳に絡め取られ、逃げることは叶わない。
「これからもこうやって……会ってほしい」
これはもう……逃げられない。
理真は、降参だというように微かに笑み、小さく頷いた。
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