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そんなに怒られることを恐れるなら、最初からしなければいいのに。
しかし、岳にとってそれは後から考えることで、あの瞬間には本当に頭になかったのだろう。
考え方が全く違う。自分の本当の気持ちに素直に忠実に生きている岳は、理真とはまるで違う人種だ。
しかし、だからこそ憧れる。こんな風に生きられれば、どんなに楽しいだろう? そんな風に思わせてくれる。
「あの……そろそろ離してもらえますか?」
これ以上こうしていると、理真も心臓が壊れそうだ。
岳は「うん」と言ったはいいが、もう一度理真を抱きしめ、頬に口付けを落とす。ちゅ、とリップ音をわざと鳴らし、今度こそやっと理真の身体を解放した。
「き……桐島さん!」
「あはははは!」
「お、怒ってないって言ったのは取り消します!」
「だって、理真ちゃんが可愛すぎるのが悪い!」
その一言でまたたく間に撃沈する。岳はまるで確信犯のような顔をしていた。
岳はおとなしくなった理真の髪に触れ、やんわりと撫でる。一房の髪を指で掬い、そこに口付けた。
そして、上目遣いで理真に請う。
「これくらいは許して、ね?」
「……」
許すとも許さないとも言えず、理真はただただ熱くなった顔を、自分の手で覆っていた。
もしかすると、自分が思う以上に岳に惹かれているのかもしれない。
どうしようという迷いと、幸せだという温かな気持ち。理真の心の中の天秤が、ゆらゆらと心許なく揺れていた。
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