狐の嫁入り

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八重子は舞ながら月を見上げ、「ああ、今日は月が笑っているから明日は晴れるんだな」とぼんやり考える。 月明かりが、秋の夜風が、舞っている八重子の身体を優しく包む。気温がほんのり肌寒いが火照る身体にはとても心地よい。 八重子の村は昔からお狐様に護られている。 お狐様の嫁子に選ばれた娘は月夜の晩に舞を踊り、遠巻きで見ていらっしゃる自身が嫁ぐであろう旦那様をお見つけしなくてはならない。……"お見舞いの儀"。 舞うのは半刻。半刻の内にお狐様をお見つけ出来なければその年より次の狐の嫁入りまで日照りが続き田畑は荒れ、数年間は村が廃れる。 故に女子(おなご)は皆、幼き頃よりお見舞いの儀を身体に叩きこまれる。 お見舞いの儀が完遂すれば、その翌日は秋晴れの中、さあさあと雨が降り、虹が渡る。 にわか雨、とも呼ばれる狐の嫁入り。 その際にはお狐様が事前にご用意し、嫁子の家の軒下に雨上がりの虹と共に贈答された白無垢に袖を通して従者の迎えを待つ。 ……稀に従者のフリをしてその代のお狐様が自ら迎えにやってくるが。
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