問題編

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 ◆     黒野心(くろのこころ)は夢を見る。 (目の前には黒い毛玉が(うずくま)っている) 「おいおい」  黒い毛玉――黒い猫は闇の中、黒い体躯(たいく)にもかかわらず、はっきりと心の前に姿を現す。 「黒い毛玉はひでえな」  クククと黒い猫は楽しそうに笑う。 「野口英世(のぐちひでお)じゃないが、名前はまだないんだけどな――あれ? 樋口一葉(ひぐちいちよう)だったか?」 (残念。野口英世は学者。樋口一葉は小説家だけれど違う。)  夏目漱石(なつめそうせき)が正解――と心は楽しく答える。 「だっけか? まあいい。楽しい会話だがさっそく本題に入るぜ?」 (本題)  そう本題――と黒い猫は念を押す。 「妄想探偵には馬鹿みたいな欠点がある」 (知ってるよ) 「へえ。でも一応言っておこうか。妄想探偵の推理は――犯人がやりそうなこと、仕掛けた罠を先に解いちまうことで、犯人のモチベーションをあらかた削いじまうって寸法だ」  そうすることで、事件そのものを、殺意そのものを無かった事にした。  少なくとも今まではそうしてきた。 「だけれど、よく考えてもみろよ。それって殺人鬼とかに通用すんの?」   その通り。  殺人鬼に罠は必要ない。  衝動的な犯行に対処などできない。 (しないね。それで本題は?) 「そうだった。そうだった」  クククと黒い猫はまた楽しそうに笑う。  そして―― 「人が死ぬ時間と場所が特定できれば楽じゃねえ?」 ――そこまで聞くと無機質な着信音と共に黒野心は目を覚ます。
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