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黒野心は夢を見る。
(目の前には黒い毛玉が蹲っている)
「おいおい」
黒い毛玉――黒い猫は闇の中、黒い体躯にもかかわらず、はっきりと心の前に姿を現す。
「黒い毛玉はひでえな」
クククと黒い猫は楽しそうに笑う。
「野口英世じゃないが、名前はまだないんだけどな――あれ? 樋口一葉だったか?」
(残念。野口英世は学者。樋口一葉は小説家だけれど違う。)
夏目漱石が正解――と心は楽しく答える。
「だっけか? まあいい。楽しい会話だがさっそく本題に入るぜ?」
(本題)
そう本題――と黒い猫は念を押す。
「妄想探偵には馬鹿みたいな欠点がある」
(知ってるよ)
「へえ。でも一応言っておこうか。妄想探偵の推理は――犯人がやりそうなこと、仕掛けた罠を先に解いちまうことで、犯人のモチベーションをあらかた削いじまうって寸法だ」
そうすることで、事件そのものを、殺意そのものを無かった事にした。
少なくとも今まではそうしてきた。
「だけれど、よく考えてもみろよ。それって殺人鬼とかに通用すんの?」
その通り。
殺人鬼に罠は必要ない。
衝動的な犯行に対処などできない。
(しないね。それで本題は?)
「そうだった。そうだった」
クククと黒い猫はまた楽しそうに笑う。
そして――
「人が死ぬ時間と場所が特定できれば楽じゃねえ?」
――そこまで聞くと無機質な着信音と共に黒野心は目を覚ます。
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