真の優しさ

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真の優しさ

僕は人の表情を読み取るのが得意だ。 聴こえない僕は、 子供の頃から人の表情を見て、 相手の気持ちを読み取っていたのだと思う。 僕には視覚が全てだ。 自然と鋭くなってしまった… 決して良い事の方が少ない… 僕の勘違いであって欲しいと思う事も、 勘違いではないことが多い… 僕の勘は悲しい程当たってしまう… 聞こえる人はよく、 聞かなければ良かったと言うが、 僕は見なければ良かったと思う。 中でも、梨香は非常に分かりやすい。 感情が100%表情に出てしまうからだ。 ある意味正直な証拠だ。 〝梨香、ポーカーフェイス得意だし!〝 そう言う梨香だが、 少し苦手かなと表情に出ていたりするから おそらく自分でも得意ではないと ある程度わかっているはずだ。 しかし、 そんな強がりな梨香が可愛く感じる。 言葉とは裏腹の思いが 表情に出てしまうようだ。 僕といて梨香は聞かなくてもよい事を 耳にしてしまう。 そもそも僕といなければ 梨香は聞かなくてもよい事だ。 それなのに梨香は見せまいと、 僕に気づかせないように、 何事もなかったように振舞ってくれる。 僕はそれに気づいてしまいながらも 気づいてないように振る舞う… そんな時、梨香の真の優しさに触れる… 一生懸命僕の視線を外らそうと 頑張る梨香を見て、 男の僕だが梨香に守られている事に気づく。 僕は大丈夫だからね。 そう伝えると、 〝それなら梨香も大丈夫〝 そう言ってくれた… 見える優しさは日々溢れているが 見せない優しさに気づいた時、 自分の体温が3度上がるような、 温かさに包まれる… きっと僕だけじゃないはずだ。 梨香は誰にでもさりげない優しさを そっと差出せる人だ。 梨香の周りには自然と人が集まる。 そういう事なのだと思う… 梨香が立ち止まった時には きっと梨香の優しさを知る人達が そっと手を差し伸べてくれるだろう… 僕自身はそんな風に出来ているとは 到底思わないからこそ、 梨香が眩しく見えるのかも知れない… 愛情を分け隔てたく与えられる人は、 同じだけの愛情を受けるのだろう… 梨香を見ているとよくわかる。 一緒にいる時間が多くなるにつれて、 梨香は毎日幸せな表情を僕に見せてくれる。 この幸せな表情を守ることは僕の役目だ。 僕も梨香のように優しくありたい。 人類から優しさというものが消えたら 地球は終わってしまうかも知れない。 優しさという形を次の世代を生きる 子供達に伝えていくのは 今を生きる僕たちの役目なのだと思う。 人に優しく自分に厳しく。 いや、 人に優しく自分に優しく。 僕は後者に大いに賛成だ。
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