銀髪の悪魔

2/2
前へ
/2ページ
次へ
「なんだお前、また来たのか」 「当然だ。お前が堕落し、快楽に溺れる様を見るまでは何度だって来てやる!」 はあぁ、と女は大きくため息をついた。 女の名前はチエ。崇高な悪魔であるこの私を、ことごとく侮辱する無礼な人間である。 「はぁ、ご苦労なこったな」 チエはそれだけ言って、再び机に向かった。 このとおり、私の美貌を前にしても平然としている。 「なあ、チエ」 私は甘い声で囁いた。 「なに」 「そんな紙切れ放っておいて、私とこちらで甘いひと時を過ごそうではないか」 「あとにしろ」 後にしろだと!? この私が女を誘って後に回されるなど、生れ落ちてこのかた一度たりともありはしなかった。そうたとえ魔力を使わずとも、この美貌をもってしれば、女の方からいくらでも寄ってきたというのに。 衝撃の出会いから数日。 これまでは私のプライドにかけて、魔術を使わず、人間の立場に立って誘惑してきたが、もーぉ我慢ならん! 「お前がその気ならこっちにだって考えがあるぞ人間!」 「この構図、なんか既視感が……」 「なんといっても私は崇高な悪魔。悪魔らしく魔術をもってお前を堕落させてやろう!」 「うわ、前のページかよ嘘だろ。……描きなおすか」 「見せてやろう!一族に伝わる秘術!はあああああああああっ!!!」 「うっ!」 私の言葉に見向きもしないチエだが、この術の前ではいてもたってもいられまい。これでこいつも私の手籠めとな――ズドンッ―― 「いたい!!」 「うっるせえなさっきから!仕事中なの見えねえのかクソが」 「痛いではないか!なにも腹を蹴ることないではないか!」 「静かにできねえなら出てけ!」 「むぅぅっ」 なんと非道な!人がせっかく世にも貴重な秘術を披露しているというのに! それにしても私の最強の秘術が効いていない?どいうことだ。 「おいチエ貴様!いったいどんな技を使って――「うるさい!」――ヒエッ、ごめんなさい」 話しかけることすらできない! この崇高な淫魔の血族である私をここまでコケにしおって、なんという屈辱! うう、しかし、また腹を蹴られるのはごめんだ。 仕方ない。ここは作業が終わるまで待っていてやろう。 別に怖いとかそういう訳ではないぞ!私の優しさで許してやっているのだ! 人間めぇ、勘違いするなよ! 「うるせえ!」 「なにが!? ぐふぉあっ!!」 「挙動が」
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加