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銀髪の悪魔
月光に輝く銀色が、夜風になびいた。
夜の静寂は深く、寒々しく感じられる。
しかし、男はそれを好んでいた。生を拒むかのような静けさと冷たさ。まるで彼らが好む闇に似ている。
男は優雅に、艶やかに、魅惑的に、けれど自然に街を歩く。ちらほらと人の姿も見えたが、誰一人として、彼の美しい立ち振舞いに気づくものはいない。彼がそう仕向けているのである。
だが、彼には三軒先の家のドアの鍵穴まで、しっかりと認識できた。
そうして今日も、満たされない女を探すのだ。
ふと見つめた先に、明かりが灯ったままの家を見つけた。しかしその灯りはパッと消えてしまう。
彼のターゲットが決まった。
電気を消したということは、おそらく今寝入り始めたのだろう。匂いからして女一人。夜が更けるまで起きている人間は大抵、"満たされていない"。
男はこれから訪れるであろう甘い食事を思って、口元を歪ませるのだった。
予想通り、部屋には女が一人だった。
無用心にも窓は開けたままで、毛布もかけずに夜風にあたりながら寝入っていた。
(久々の食事だ)
男は女の上に跨がり、シャツの下に手を這わせる。
薄い横腹をなぞって、ゆっくりと、上へ手を忍ばせていく。
(少し肉が足りないか)
「ぅん」
女が小さく声をあげた。
男はニヤリと顔を歪めて、手を進めた。
(久々の食事、ゆっくり味わうとしよう)
もうすでに、胸に触れていた。
女は下着を着けていなかった。
男は気にする様子もなく、しつこくそこに触れた。
「………ゃ……だ」
女の声が聞こえてきた。
しかし、男は手を止めない。
「………ま…………って」
しかし、男は手を止めない。
「………………ぉい」
しかし、男は手を「じゃまだって言ってんだろうが!!」──ドゴォ!!──「ぶべらっ!!」
(え?え?なに?なに?)
女はぐわっと起き上がって、思いっきり彼の──私の頭に頭突きをかましたのだった。
バキッ!ドカッ!ゴンッ!ボキボキボキ!
「くそがっ!!締め切りはちゃんと守ったろうが!もう寝る!!邪魔すんな!」
そしてしたたか殴られた。
(なにこの女、なんだこの女!)
女は再びベッドに寝転がり、一時もせずにイビキをかきはじめた。
取り残された我は呆然とし、朝日が上るまでずっと、殴られた頬を擦っていた。
そこにスポットライトがあったなら、まるで悲劇のヒロインのごとく床に座り込む私が、無様に照らし出されることだろう。
これが、淫魔の私とこの女との最初の出会いである。
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