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「なんだお前、また来たのか」
「当然だ。お前が堕落し、快楽に溺れる様を見るまでは何度だって来てやる!」
はあぁ、と女は大きくため息をついた。
女の名前はチエ。崇高な悪魔であるこの私を、ことごとく侮辱する無礼な人間である。
「はぁ、ご苦労なこったな」
チエはそれだけ言って、再び机に向かった。
このとおり、私の美貌を前にしても平然としている。
「なあ、チエ」
私は甘い声で囁いた。
「なに」
「そんな紙切れ放っておいて、私とこちらで甘いひと時を過ごそうではないか」
「あとにしろ」
後にしろだと!?
この私が女を誘って後に回されるなど、生れ落ちてこのかた一度たりともありはしなかった。そうたとえ魔力を使わずとも、この美貌をもってしれば、女の方からいくらでも寄ってきたというのに。
衝撃の出会いから数日。
これまでは私のプライドにかけて、魔術を使わず、人間の立場に立って誘惑してきたが、もーぉ我慢ならん!
「お前がその気ならこっちにだって考えがあるぞ人間!」
「この構図、なんか既視感が……」
「なんといっても私は崇高な悪魔。悪魔らしく魔術をもってお前を堕落させてやろう!」
「うわ、前のページかよ嘘だろ。……描きなおすか」
「見せてやろう!一族に伝わる秘術!はあああああああああっ!!!」
「うっ!」
私の言葉に見向きもしないチエだが、この術の前ではいてもたってもいられまい。これでこいつも私の手籠めとな――ズドンッ――
「いたい!!」
「うっるせえなさっきから!仕事中なの見えねえのかクソが」
「痛いではないか!なにも腹を蹴ることないではないか!」
「静かにできねえなら出てけ!」
「むぅぅっ」
なんと非道な!人がせっかく世にも貴重な秘術を披露しているというのに!
それにしても私の最強の秘術が効いていない?どいうことだ。
「おいチエ貴様!いったいどんな技を使って――「うるさい!」――ヒエッ、ごめんなさい」
話しかけることすらできない!
この崇高な淫魔の血族である私をここまでコケにしおって、なんという屈辱!
うう、しかし、また腹を蹴られるのはごめんだ。
仕方ない。ここは作業が終わるまで待っていてやろう。
別に怖いとかそういう訳ではないぞ!私の優しさで許してやっているのだ!
人間めぇ、勘違いするなよ!
「うるせえ!」
「なにが!? ぐふぉあっ!!」
「挙動が」
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