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月明かり、消し飛べ。
十五夜という文化は、もはや日本に存在しない。
若者が求めているのは花見だのハロウィンだのバレンタインだの、仲間と一丸となって騒げるイベントだ。餡子も蜜もかかってない団子を置き物みたいにして月をぼーっと眺める儀式なんて誰も求めていないのだ。
同じ空ジャンルのイベントでも、流星群とかの方がずっと興奮できる。月なんて金環日食が起こったときに見ればそれで十分だ。
だいたい現代の9月のどこに秋らしさがあるというのだ。マジで暑すぎるぞ。地球はもうだめかもしれない。
そんなどうでもいいことを、大学1年生の俺は部屋でひとり考えていた。
天井のLEDライトは眩しすぎるほどに光っている。窓は青いカーテンで閉め切られており、外に広がっているはずの田舎の風景は一切見えない。
俺はスマホに手を伸ばし、EDMを流す『憂tube』の音量を最大限まで上げ、ヘッドホンの重さが加わった頭をBPM120で縦に振る。手元のタンブラーには400mlの麦茶と5個の氷が入っており、サウナに入った後の水風呂よりも心臓に悪いそれを、一気に流し込む。合わせて口に入り込んだ氷をばりぼりと噛み砕いて、過剰な刺激をスパークさせる。
感傷に浸る余裕もなく、風情の欠片もない。
地方で一人暮らしを始めて最初の十五夜は、そうやって過ぎて行った。
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