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それから一年が過ぎた。あっという間だった。
適当に授業に出て、適当にサークル活動をして、それなりの数の友達ができた。彼女は相変わらずいないが、贅沢は言わないでおこう。
今日も先輩に誘われ、大学近くの居酒屋に向かった。しかしこの時間は12月生まれにとってあまり面白くない。同級生がビールだの日本酒だのを『合法的に』飲むのをいやというほど見せつけられた。
言っておくが俺がコーラを飲んでるのは19歳だからではなく単純に好きだからだ。なにが「オレが飲んでるのがコークHighならお前のはコークLowだな。うははは」だ。なんっにも面白くないぞ、ふざけやがって。
まあ料理は美味しい店だったので、それなりに楽しむことはできた。
店を出るころには、あたりはすっかり暗くなっていた。
これから冬に近づくにつれ、日が暮れるのも早くなるのかと思うと、憂鬱な気分になった。
同じアパートに住む友人と共に、来た道を歩いて帰る。店で聞いた面白い話を二人で再放送しながら、ときおり笑ってみたりして、素晴らしく平穏な時間が続いていた。
――はずなのに。
「あっ! 見つけた!」
背後から、いやに聞き覚えのある声がした。たいへん嫌な予感がした。
友人が疑問顔で振り向くのを、早く行こうと急かす。俺には既に、そこに誰がいるのか分かりきっていた。
「お~い! シナハラく~ん!」
……だが、こう大声で名前まで呼ばれてしまっては、無視するのも限界だろう。俺は諦めて、仕方なく振り返ごはぁっ!
「ああっ、背中を叩くつもりだった手がシナハラくんのみぞおちに!」
解説するな、人の不幸を。
「いやーごめんごめん、急に振り返るとは思わなかったからさ」
正常な呼吸を取り戻した俺は、顔を上げる。
そこにいたのは、予想通りの人物。
さくらんぼが描かれた白いTシャツの上に、カーキ色のカーディンガン。そして同じ色のベースボールキャップから、軽くカールのかかった薄いブラウンの髪が肩まで伸びている。少し日焼けした顔の上には、いつも通りの明るい笑顔が浮かんでいた。
俺はその表情に若干イラっとしながら、『彼女』の名前を呼ぶ。
「……なんの用ですか、へちゃ先輩」
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