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「……一体、なにをしようっていうんですか」
こうまで言われては、無下にするわけにもいかないだろう。ずるい人だ。
「今から一緒に、来てほしいところがあるの」
「……はあ。だから夜に出歩くのは嫌だとずっと言ってます。だいたい、先輩も危ないでしょう」
「そこはちゃんと考えがあるのです」
へちゃ先輩はそう言って、肩にかけた鞄を探ると、中から怪しげな物体を取り出した。真っ黒なそれは、まるでクワガタのような形をし「えいっ」バチチチチィッ!!「うひゃあっ⁉」
「あはは、シナハラくんどこから声出してるの」
「ちょっ……なんですかそれは!」
「え? 見ての通りスタンガンだけど?」
あっけらかんと答える姿に、俺は唖然とする。
「まあ、こう見えても防犯意識はそれなりにあるのですよ。……ともかく、これでわかったでしょう? シナハラ君の安全は保障するから」
……まったく、本当にとんでもない人だ。
結局、俺はへちゃ先輩に連れられるままに歩いて行った。
するとどんどん、ただでさえ明かりの少ない町から離れ、ほとんど森の入り口のような場所まで来てしまった。
あたりは真っ暗で、あの日のことを想起させる、俺にとって一秒たりとも居たくない場所だった。
「ちょっとなんなんです、ここは……」
流石に我慢の限界で、俺は声を上げる。
しかしへちゃ先輩は笑って、妙なことを口走りだした。
「お姉さんが、これから君に魔法をかけてあげよう」
??? ちんぷんかんぷんな俺の前で、へちゃ先輩は両手を「はい」と言って差し出した。
「……えっと、なにを渡せと?」
明らかに何かを受け取るときのポーズなので、そう聞いた。
しかし先輩は首を振る。
「ううん、違うの。今からシナハラくんを、ある場所まで引っ張って誘導していくから――」
そして、へちゃ先輩はとんでもないことを言った。
「目を瞑ってほしいの」
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