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深海の底と、瞼の裏側。
どちらの方が暗いのか、今の俺には判別がつかない。
「せ、先輩っ……」
子供のような情けない声が口から漏れだす。
「大丈夫だよ、周りには誰もいないからね……」
暗闇の中、返ってくる先輩の声で、微かな安心を得る。
先輩は俺が転ばないように、向かい合って手を握ったまま、ゆっくりと進んでいく。それがまたもどかしくて、俺は逃げ出してしまいそうになる。
一歩、二歩。
塞がれた視界の代わりに、聴覚が敏感になる。
草むらで鳴く虫の声がうるさいほどだった。
三歩、四歩。
進んでいくと、水の音が聞こえた。
さわさわと、人を安心させるような音。
そして、木々が柔らかくざわめく音。
そして、
「シナハラくん。もう目を開けていいよ」
そんな、へちゃ先輩の声。
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