妄想の扉

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傘の中、見上げたすぐ横に 山森くんの顔があった。 「……こうしないと結衣さん濡れちゃうから」 「そ、そうかな?」 疑問系で、なんとか恥ずかしさをまぎらわせた。 山森くんに肩を抱かれて歩くのは、 初めてだしドキドキもしていた。 ほのかに爽やかな柑橘系の香りがしてきた。山森くんらしい、爽やかな香り。 「結衣さん、なんか食べていきませんか? 俺、腹減っちゃって」 「そうだね、食べて行こうか」 「やった。結衣さんと2人きりで食べるのって初めてですよね」 ーーー2人きりを強調されているようで、なんだか緊張する。 「そうだよねぇ。2人きり……は、今の今まで無かったねー。うん」 無駄な汗が全身から吹き出しそうだ。 「あ、あそこにしませんか?」 右手の方向を指差す山森くん。 「えぇ! あそこ?!」 山森くんの指差す方には、恥ずかしげもなく堂々とそびえ立つラブホテルがあった。 看板が派手に光って人目を引いている。 ーーーい、いくらなんでも、初めてであそこはないんじゃないか? あんな古ぼけたラブホ? っていうか、ご飯が変貌して いきなりラブホ? 「や、山森くん、私ってそんなに尻軽な感じに見える?」 半分泣きそうだった。 山森くんは、夕飯食べるのと 同じような感覚で 私をすぐ食べられる女だと 思ってるんだ。 可愛らしいと思ってたのに。 中身は、鬼畜! これじゃあ期待していた送り狼なんか 遥かに通り越してるよ。 ここまでの展開は、正直言って不快! こんなの無しだよ。 私はときめきたかっただけなのに。 簡単にやれる女とか思われてた訳? こんな調子だと、そう思ってたんでしょーね。 だから、こんなに簡単に ラブホに誘えちゃうんだ。 ああ、なんだか かなり落ち込むなぁ。
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