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…しかし。
ーパラリ。
「…え?」男は目を疑った。
銃弾は少年の体を貫通せず、彼の皮膚に当たったまま勢いが止まり、地に落ちた。
銃口から放たれたその鉛玉は確かに、少年の体に命中していた。だが、当の少年は少し蹌踉めくだけで倒れることは無く、男に向かって歩み続ける。
「…なんでだっ…何で死なねえっ…当だっだのにっ…だまはあだっだのにっぃぃぃっ!!」
男は何度も拳銃を少年に向けて撃つ。それも、男にとっては幸か不幸か全弾少年の体に命中した。
しかし結果は変わらず、鉛玉は少年の素肌を貫くことは無かった。
それどころか、防弾チョッキを着けた時、若しくはテレビや漫画に出てくるスーパーヒーローみたいに、ビクともせず、銃弾は体を貫通する事無くパラパラと落ちてゆく。
少年は確かに、何も身に纏っていない全裸、防具一つ着けていない。
(だが、コイツも男だ…)
男は、何を思ったのか、銃口を少し下げ…、
(ならば、これで…!)
ー…バァァァァァン!!
そのまま、銃弾を放った。
火の粉を撒きながら、それが向かっていった先は、今も天に突き立っている、少年のふとましい男の象徴。
どんな化け物でも、ここをやられれば…!
「…じねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
男は、今度こそ勝利を確信した…。
ー…ビィィィィィン。
「おい、マジかよ…」
銃弾は、確かに硬くなった「ソレ」に当たり、その斥力で少年のへそ近くまで反った。
…が、命中した所は粉砕されず、肉片一つ飛び散らない。
当然一滴の血も噴き出さず、少年は痛みすら感じないし、歩みも止めない。
更に、反った「ソレ」がバネになり…、
ー…ビィィィィン!!
勢いよく、銃弾を跳ね返した。
-ビスッ。
「…ぐああああああっ!!」
そのまだ熱い銃弾が、男の左眼を潰した。
眼球は熱で溶けて液体となり、男の頬を血と共に濡らしてゆく。
男はのけぞり回ることすら出来ず、潰された目を押さえることも出来ずに、ただ苦しんだ。
「何でっ、何であんなっ、あんなぢょめごうのぐざれぢ…ごに、目をやられるんだぁぁぁぁぁっ、ざけんなぁぁぁぁぁ!!」
男は思った。こんなギャグ漫画みたいな事、あり得ないし、あり得て欲しくなかった。しかしそれは現実に起きている。その現実が、男を更に苦しめる。
そして…。
ーカチン、カチン。
「おいっ、出ろよっ、出でごいよっ!!」
金属同士がはじき合う音が鳴る。弾が底を尽きたのだ。だが恐怖で怯えている男には、ソレも理解できず、ただ引き金を引き続けた。
一方の相対する少年は右脚をあげ、ダン、と勢いよく、男の左手を踏んだ。
ーグシャグシャ…ブシャァァァァッ!!
「…あ…」
男の左手と拳銃が、トマトのようにいとも簡単に潰れ、鮮血と肉、砕けた骨、鉄屑、火薬が飛び散る。
男の、最後の悪足掻きが、完全に終わった瞬間だった。
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