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「…待ってぇぇぇぇぇっ‼」
こうして朝毎日、少女…聖鳴歌音(ひじりな かのん)は悲鳴と共に目が覚める。
その時はいつも涙を流す。眠気からではない、悲しみの涙を。全身も汗でグッショリと濡れ、そのせいで赤茶色の髪は湿り、寝巻きも体にびっしりと張り付き、肢体の形がくっきりと出ている。
周りを見渡すと、男の子が遊んでいた公園も、閉じ込められていた黒い部屋も無く、テレビやデスク、本棚と、あらゆる生活家具が至る所に立ち並び、カーテンレース越しに朝日が空間を照らしている。布団の上も、いくつものヌイグルミが転がっている。
「…また、あの夢だ…」
歌音は夢から覚めるたび、あの男の子の事を考えて、自己嫌悪に陥る。その度、生きる自信が無くなってくる。あの夢の先を見たことは、一度も無い。これまで生きてきた中で、一度も…いや、見たくもない。見てもいけない。もしその先を見たらきっと、生きていることすらも恐ろしく感じるだろう。いや、もう心の奥底では恐れているのかもしれない。ならば、いっその事消えてしまいたい。ここから。この場から。この世界から。死にたい。死んでしまいたい。じゃあ、死のうか。さて、どうやって死ぬ?この手で首を絞めるか?それとも手首を切るか?毒でも飲もうか?う~む、どれも捨てがたい。選べない。こうなったら、全部まとめて一辺に試して…。
「…ううん、駄目だ…」
もし、それで本当に自分が消えたらどうなる?残ったみんなは、どう思うのだろう?友達は?親戚は?先生は?
そして、何より家族は…。
「…きっと、みんな悲しむよね…」
…なら、消えないほうがいい。
この世界に、いたほうがいい。
生きていたほうが、ずっとマシだ。
たとえ、この世界に生きることががどんなに苦しいことだったとしても。
たとえ、どんなに悲しいことだったとしても…。
それでも…大好きな人たちを、悲しませるよりはいい。
なら、あんな夢でいつまでもウジウジしてなどいられない。
今日もまた、外の世界へ出かけよう。
自分が来るのを、家族も待ってくれている。
友達にも会える。
出会いだってきっとある。
そうすれば、楽しい時間が待っている…。
「…なら、今日も元気に笑わなくちゃ…」
…でも…。
歌音は、その汗まみれの体を見て、表情が引きつった。
「…ううっ…嫌だなぁ…」
歌音はベッドから立ち上がると、ヨロヨロとした姿勢で部屋を出た。
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