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初春の朝日が、差し込む浴場。
歌音は、程よく熱したシャワーでその肢体から湧き出た汗を流していた。百五十センチ程の身長にも関わらず、寝巻きからは汗で張り付くまで分からない程の、豊かで、かつ滑らかな肢体が露わになっていた。無毛で、傷一つない肌に、腕と脚、腰は細く、ウエストに括れが出来ている。ヒップも後ろに突き出るほど大変立派で、落ちた水滴は見事な曲線をツツーと伝ってポトリと足元に落ちてゆく。
そして何より…。
「ん…」
前方からの重みが気になり、歌音は自らの乳房を下から持ち上げた。
「ふふっ、また、おっきくなっちゃったかな…」
その膨らみは手のひらに収まらない位に実っており、持ち上げようとする度に、手からこぼれる。その小柄な身長に反して大きく育った胸は、彼女自身の悩みの種であり、己の自己主張を示す象徴でもあり、最高の遊具でもあった。
歌音は、自らの乳房を見て、少し困りながらも微笑んだ。
…だが、いつまでもそうして自分の体に見惚れているわけにもいかなかった。
「うっ…はぁっ…はぁっ…」
鏡に映る全裸の自分を見る度に、息遣いが荒くなる。顔が蒼白に染まる。瞳孔が開く。体もよろめく。その脳裏に浮かぶのは、あの夢に出てくる全裸の子供たち。
「早く、早く出なきゃ…服、着なくちゃ…っ!」
いつまでもこうやって裸体を晒していたら、あの子供たちのように狂い出すのではないか、毎日四六時中そう感じていた。実際、夢の中の子供たちは、皆恐怖で怯えていたのだろう、何処か異常だった。そうでなければ、檻の中で平気な顔で失禁したり出来ないし、増してや…とにかく、あんな所に閉じ込められて、よく平然とこういう事が出来るものだ。自分では考えられない。
もしや、あの夢の見すぎで自分もあんな風になってしまうのだろうか?
「これ以上になっちゃったら、ぼく…狂っちゃうよぉ…怖いよぉ…」
歌音は恐怖のあまり、涙を浮かべる。だが体は止まらず、敏感な所に手を伸ばしはじめる。いけないと解っているのに、体が言うことを聞かない。念じても、止まらない。
もう無理だ。
そう観念した、その時だった。
-姉さん!
ガラス戸の向こうから少女の声が響く。歌音はその声を聞き、ハッと我に返る。
「…ううん、しっかりしなきゃ!」
でなければ、朝起きた時に折角己にかけた暗示も無駄になる。
毎日笑って暮らせないし、みんな暗い気持ちになる。
そしてまた、自殺願望が浮き彫りになる。
そう思った歌音は、呪縛から体を解放してすぐに涙を拭うと、深く深呼吸し、勢いよく両頬をパンパンと平手打ちし、心身に気合を入れる。
「…よし!」
気合が入り、ようやく笑顔になった歌音は、シャワーのお湯を止めると直ぐに浴場から飛び出す。
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