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「姉さん、お早う」
眼前には、自分とほぼ同じ背丈の、赤髪の少女が、長身で、流麗な顔立ちをした、白髪の、黒スーツの人物を伴って立っていた。
少女は微笑んではいるが、その眼は笑っていない。スーツの人物に至っては、笑ってすらおらず、無表情を貫いている。
「遅い」と言わんばかりに、少女から発せられるオーラは非常に殺風景なもので、とにかく、空気が重く感じられた。
…が、歌音は表情一つ変えず…。
「あっ、おはようかなちゃん。あと、ウロコさんも」
「…っ!」
歌音の発言に、スーツの人物は大きく反応する。
「誰がウロコだ…自分の名は緋壱憐だ、ひ・い・ち・れ・ん!何度も言わすな!」
スーツの人物=緋壱憐(ひいち れん)は思わず、声を荒げ歌音に対し怒鳴りだす。その発せられた声は低くも、かつカン高かった。
歌音に詰め寄ろうとする憐を、少女が制す。
「憐さん、姉さんに乱暴をしないでもらえます?」
「でっ…ですが…」
「ですがも何もございません。それに、朝っぱらから大声を出してはなりませんよ。近所迷惑ですから」
「は、はい…奏ちゃま…」
少女=聖鳴奏(ひじりな かなで)に制され、憐は下がる。
「姉さん困るわ、いくら春休みの最中だからといっても、今日が最終日よ。もうそろそろしっかりしてくれないと」
「あはは、そうだったね、ごめん…」
「全くもう…まあ、姉さんらしいといえばらしいけど」
姉妹の談話をよそに、憐がゴホンと咳き込む。
「あ~、談笑の途中水を注すようで申し訳ないが」
「ん?」
「はい?」
憐は、歌音を指差す。
「ねえ、どしてウロコさんはミーを指差すの?」
「だから憐と呼べ。それより、自分の姿を見ろ」
「すが…た?」
歌音は憐に言われるがままに、自分の身体を見る。
まだ、浴槽から上がったばかりの全裸のままだった。
「…あ、通りでちょっと寒いなって思ってたら…はぁ、はぁっ…」
自分の生まれたばかりの姿を見て、またも息を荒くする歌音。一分もしない内に、その場に倒れこんでしまった。
「ちょっ、ちょっと姉さん!」
奏が、フックに架かっていたバスタオルを手に取って歌音の傍に駆け寄り、地に伏す前にその肢体を受け止める。同時にバスタオルで歌音の身体をくるりと包む。
「…あれ?み、ミー…」
タオルの感触に触れたのか、歌音は正気に戻る。
「よかった…憐さん、貴方また…!」
「す、すみません、このままでは姉君が風邪を引かれるかと…」
「言い訳は結構、私はここで姉さんを看てますから、憐さんは早くお着替えの準備を!早く!」
「はっ、はい、かしこまりました!」
憐は奏に命じられ、大慌てで籠の中にあったシャツや下着、スカートを取り出す。
「…それにしても」
歌音の身体を抱える奏のまっさらな胸元に、ふかふかした感触が伝わる。そこに視線を向けると、大きな二つの膨らみが大迫力で迫ってくる。
「姉さん…また育ってない?」
「え、何が?」
「…胸」
「うん。何か重いなって思って持ち上げてみたら、また大きくなっちゃった」
「…なっ…⁉」それを聞いた憐が、歌音の服や下着を落とす。
その顔は蒼白に染まる。
「…ウロコさん?」
「あらあら…ふふっ…」
何が起きたのか分からず、キョトンとする姉と、呆れて頭をかしげながらも微笑む妹。
その後、歌音は真っ白に染まったまま動かなくなった憐をよそに衣服を身に纏い、奏に引っ張られて風呂場から去っていった。
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